携帯料金値下げ騒動、通信費を安くする妙案とは(その1)

2007年、韓国都市部の労働者は1カ月平均で13万5000ウォン(1万6200円)の通信費を使い、このうち携帯電話料金の占める割合は約6割に当たる8万3200ウォン(約1万円)だった。家計支出のうち通信費の占める割合は5.6%。これはOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で最高水準だという。この発表のせいだろうか、新政府は通信会社や移動通信キャリアに通信費の20%値下げを要求した。企業が自由に競争する中で料金が下がるのならともかく、政府が無理やり値下げを要求するのはひどい、と論争になっている。

 韓国の携帯電話料金は標準プランの場合、基本料金は1万5000ウォン(1800円)前後、通話料は10秒当たり18ウォン~20ウォン(2.2~2.4円)となっている。ビジネスマンだと電話もデータ通信も使わざるを得ないので、月に6万~10万ウォン(7200~1万2000円)ほど支払っている。所得は日本の3分の2から2分の1なのに、通信費は日本とそれほど変わらないわけでかなり厳しい。これに端末料金まで考えると家族4人の携帯電話料金だけで所得の大半が消えてしまうことになる。


 こうした情勢の中、韓国キャリアは2007年末から電話料金値下げの一環として日本のソフトバンクモバイルのホワイトプランをまねた「網内割引」を始めた。月額2500ウォンを追加すると、同じキャリアの加入者間の通話料がSKテレコムの場合で50%、KTFならば30%安くなり、LGTだと無料というプランだ。


 SKテレコムはシェアの50%以上を占めているので加入者間の通話も多い。加入者の全通話時間の内、加入者間の通話比率は53%におよぶ。そのため「網内割引」プランの普及には意欲的で、テレビCMをはじめ、3カ月以上もマーケティング攻勢を続けている。しかし加入者間割引に加入したユーザーはたったの7.6%にすぎず、ユーザーはあまり興味を示していない。加入者間通話の割合はKTFは30%、LGTは23%しかなく、割り引きのメリットを感じられないユーザーが多いのか、ほとんどがこの料金制度を選んでいない。新政府はユーザーが望まない料金プランをたくさん作るよりも、確実に値下げ効果のある基本料金や加入費に手をつけたくてうずうずしているようだが、政府であってもそこまではできないだろう。


 SKテレコムは、網内割引は割引率が高いので加入者の70%はこのプランを選択すると見込んでいたが、予想が大きく外れた。例えばSKテレコムの加入者で月200分ほど利用するユーザーの場合、平均53%が加入者間通話だとすると、割引される料金は約6360ウォン(763円)、追加料金2500ウォン(300円)を差し引いても3860ウォン(463円)お得になる。それでもユーザーにとってみれば、そもそも音声通話そのものをあまりしなくなったので加入者間の通話割引はそれほど魅力的ではない。家族割引や指定番号割引はからあったので、加入者間割引で大きくシェアを伸ばした、なんてことは韓国で起こらなかった。


 通話料だけでなく、SMS(ショートメッセージ)も80バイト当たり30ウォンだったものを、20ウォンに値下げしているので、これ以上の値下げは難しい。通信キャリアは、どこを絞れば料金を値下げられるのかアイデアがほしいと言うほどだ。通信キャリアは基本料金と加入費(加入手続き事務料金)にだけは手をつけないでほしいと大反対しているため、あくまでも通話料やデータ料金を値下げするしかないのだが、一体どこを削ればいいのやら悩ましいのは通信キャリアも政府も同じだろう。


政府の担当者からは、携帯電話料金を安くするため電話をかける人も受信する人も課金してはどうかといった双方向課金制の意見や、従量制のように通信や電話を一定量以上たくさん使う人には2~3倍の料金がかかるようにしてはどうかという意見が出た。


 これまた「電話代の割り勘なんて一体どういう発想だ」、「通信と電話は空気のようなライフラインなのに、これじゃ料金が怖くて使ってられない」と議論になった。「電話はかける人が電話料を払うもので受信する人もお金を出すなんて、負担が大きすぎて電話に出れなくなるではないか」、「国際ローミングじゃあるまいし受信するのもお金がかかるなんてひどい」、「通信費の負担を軽くするといったのに、その妙案というのが消費抑制なのか?」とネットでの抗議の書き込みも絶えず、キャリア側も電話やデータ通信をたくさん使ってくれる顧客ほどありがたいVIPとして待遇するのが資本主義なのに、こんなのあり?という反応で「これは企業のマーケティングを否定する発想である。通信と電話の消費を押さえ込もうとする、通信市場について何も知らない素人に勝手なことを言われては困る」と猛反発したことから、このアイデアはなかったことに、ということになった。


 このほかにも携帯電話料金を安くできるという制度改革案が登場している。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年1月30日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20080130/292455/

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