[日本と韓国の交差点] セウォル号が韓国社会に生んだ新たな分断

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3月25日夜9時過ぎ、韓国海洋水産部(韓国の「部」は日本の「省」)はセウォル号の船体引き揚げに事実上成功したと発表した。2014年4月16日、修学旅行に行く高校生325人と教師14人、その他乗客104人、乗組員33人合わせて476人を乗せて済州に向けて仁川港を出たセウォル号は、韓国南西部にある珍島周辺の海で沈没、死亡295人、行方不明9人という大惨事となった。

 それ以来1075日ぶりに船体が海の上に姿を現した。25~26日には、事故現場から最も近い彭木(ペンモク)港を多くの人が訪れた。被害者を追悼するためだ。

 海洋水産部は3月22日からセウォル号の船体引き揚げに取り掛かっていた。依然として明らかになっていない事故の原因究明と、9人の行方不明者の遺体を探すためである。船体引き揚げが決まり業者が選定されたのは2015年8月だが、天候や技術的な問題から準備作業が長引き、実際の引き揚げ作業を開始するまでに時間がかかった。

 船体の引き揚げ作業を担当するのはShanghai Salvage中国交通省が所有する国営企業だ。2015年8月に実施された国際入札で選ばれた。落札後、約350人の作業員が珍島の海上に建てたコンテナーで寝泊まりし1日3交代で作業をしてきた。

 海洋水産部によると、韓国政府がShanghai Salvageに支払う費用は、当初予定の916億ウォン(約92億円)から膨張している。引き揚げが難航したことで作業期間が長くなったからだ。途中で引き揚げ方法も変更。この結果、費用は2000億ウォン(約200億円)に及ぶことになりそうだ。複数の韓国メディアによると、Shanghai Salvageはセウォル号引き揚げによる利益より、「難度の高い引き揚げを成功させた企業」として認知される宣伝効果を重視しているという。

 引き揚げられた船体は海水を抜く作業をしたのち、木浦(モクポ)新港に移動。事故の原因究明と行方不明者の遺体捜索に本格的に着手する。船体調査委員会が10カ月ほどの時間をかけて調査することも決まった。同委員会は、国会が推薦した専門家5人と、遺族が推薦した専門家3人で構成される。

CNNは「national trauma」と位置づけた

 セウォル号の船体引き揚げが始まった3月22日、CNNやAFPなど世界各国のメディアも作業の状況を詳しく報じた。CNNはセウォル号大惨事を以下のように説明しながら、「National trauma」と位置づけた。

 2014年4月16日、セウォル号の中に300人近い高校生たちが残されたまま沈没していくのを、全国民がテレビの生中継で見た。沈没し始めた船内で客室の窓を割ろうと必死になっている人の姿も映っていた。セウォル号の船長と乗組員は「動くな、客室内で待機せよ」と案内放送した後、自分たちは真っ先に逃げた。

 大人の言う通り、客室内にいた高校生らは、危険な状況に気付くことなく、傾き始めた船の中で楽しそうにはしゃぐ動画を残した。それが徐々に、助けを求める動画に変わり、親兄弟に最後のメッセージを残す動画に変わった。「どうして客室に残れと言ったのか」「なぜ助けられなかったのか」と怒りを感じない人はいなかっただろう。

 生存者の証言によって、救助活動が常識的には考えられないほど疎かだったことが判明した。子供たちを「助けられなかった」「何もできなかった」という心の負債が、テレビでセウォル号が沈むのを見た人達にいまでも残っている。セウォル号で犠牲になった子供たちのことは、船体引き揚げに関する記事のコメント欄やSNSだけでなく、日常の会話の中でもよく話題になり、みんな忘れることができないように見える。セウォル号大惨事はまさにナショナルトラウマである。


By 趙 章恩

 日経ビジネス

 20173

-Original column

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/032700061/

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