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「青年の就職難を解消するためにグローバル就職と起業を拡大し、よい働き口を作れるよう政府が後押しする」
朴槿恵次期大統領の発言である。次期政府はこれまでのどの政権よりもベンチャー企業に対する関心が高い。
韓国では1998年にベンチャー企業育成特別法を制定。「ベンチャー認証」を受けた企業に低利融資、優遇税制を提供している。認証を受けたベンチャー企業は2013年時点で3万社を超えると見られている。政府はベンチャー企業が増えれば雇用も増えると見ているようで、その数を増やすため起業資金を支援している。
しかし現実はバラ色ではない。KOSDAQ(訳者注:米国のNASDAQのような韓国の新興企業向け証券市場)に上場できたベンチャー企業は全体の1%程度である。中小企業に成長できるのは100社に1社程度ということになる。
ベンチャー確認公示システム「ベンチャーイン」によると、ベンチャー認証を得た企業は2012年末で2万8193社。ベンチャー企業は年平均2500社ほど増加しているので、2013年には間違いなく3万社を超える。1990年代末から2000年代初めまでのベンチャーブームから10年、再びベンチャーブームが始まろうとしている。
中小企業庁とベンチャー企業協会は2013年「先導ベンチャー連携起業」支援金を大幅に増やした。2012年には45億ウォン(約3.8億円)だった予算が、2013年には75億ウォン(約6.4億円)に増加した。起業して1年以内の初期起業人(訳者注:起業人はベンチャー企業経営者)と予備起業人は最大9000万ウォン(約770万円)まで事業費の支援を得られる。韓国コンテンツ振興院はメントリングプログラム(訳者注:専門家と起業したばかりの起業家を1対1でマッチングし、専門家が起業家の面倒をみて、育成する)と資金を提供し、ITベンチャーの海外進出を助けている。就職の代わりに起業を支援する動きである。
敗者が復活できる仕組みを作れ
このような支援によってベンチャー起業の数は急増しているが、その一方で、純粋な意味のベンチャー起業ではないという分析もある。韓国開発研究院によると、ベンチャーキャピタルや個人投資家に技術力・成長可能性を認めさせ、投資(資本金の10%以上)を引き出したベンチャー企業は全体の1.5%しかない。98.5%は技術評価保証企業といった政府機関から資金を支援してもらっている。政府機関が政策的に認証して融資している企業がほとんどなので、ベンチャーブーム到来と見るのは時期尚早という指摘もある。
ベンチャー企業の数が増える中、消えていく企業も多い。KOSDAQに上場したベンチャー企業数は、2005年の405社から2010年には295社に減っている。中小企業になると政府の支援が急減するので、いつまでもベンチャー企業のままでいようとする企業もある。2011年に売り上げが1兆ウォン(約8500億円)を突破したベンチャー企業はNHN(訳者注:インターネットゲームやポータルサイトNAVER、無料通話アプリLINEで有名な会社)とコイル専門会社のサムドンだけである。
ベンチャー企業の成功率が低いのは、ベンチャー企業を立ち上げて事業に失敗すると、後遺症がとても大きいのも理由の1つだ。米国では起業に失敗した個人が破産しても、1億3000万ウォン(約1110万円)以下の住宅は差し押さえない。これに対して、韓国で破産すると、最高1600万ウォン(約136万円)の賃貸保証金と生計費720万ウォン(約61万円)だけを残して取り上げる。一度失敗すると、永遠に失敗者というレッテルがついて回る。失敗を覚悟して果敢に起業しようという人が減らざるを得ない構造である。ベンチャー=挑戦精神という公式も消えてしまった。
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趙 章恩2013年2月22
-Original column