[日本と韓国の交差点] 大学の存在意義は就職にあり?

日本では少子化のために新入生が減って、地方大学は大変だ、という話を聞いたことがある。韓国も少子高齢化で同じような状況に陥っている。ソウルにある名門大学に入るための受験戦争はいまだにすごい。受験の日には国中が緊張する。遅刻しそうになった受験生を白バイが会場まで送ってあげたり、公務員の出勤時間を1時間遅らせて受験生が渋滞に巻き込まれないようにしたり、といったことが起きている。しかし、入学試験の成績が悪くても授業料さえ払えばすぐ入学できる地方大学も増えている。大学の数があまりにも多いため、定員割れが起きているからだ。

 筆者は、ソウル市内の高校で教師をしている従姉から、大学のロゴ入り健康食品や靴下、ハンカチをよくもらう。地方大学の教授らが首都圏の高校を回り、3年生の担任らに頭を下げてお土産を置いて行くのだそうだ。「うちの大学も受験するよう、ご指導のほどよろしくお願いします」というわけである。以前は大学の教授がわざわざ高校まで来てくれたのだから、とちゃんと対応していた。だが、その数があまりにも多いので、最近は「あ、またか」と振り向きもしなくなったという。

 入試説明会という名目で大学側が高校3年生の担任先生を観光地に招待し、接待することもある。学生がいないと教授も大学もいらなくなる。地方大学は新入生を勧誘するため必死になっている。

就職率の低い学科を廃止へ

 こうした中、定員割れが続く大学に対して、政府がリストラを促し始めた。

 大学の講義や教授の研究活動のレベル、学生の就職率を評価して、点数が低い大学には補助金を給付しないことにしたのだ。韓国の大学は、私立であってもすべて、政府から一定の運営補助を受けている。政府からの補助金がなくなり、学生も減ると、大学は経営難で廃校するしかなくなる。

 大学側は政府による評価をなんとか高めようと、就職率が低い人文学部――国文学科(韓国文学)や哲学科――ほか、絵画科といった人文学部と芸術学部を廃止し始めた。大学が示す理由はこうだ。就職率が低い学科があると、大学全体の平均就職率が低くなる。そうなると大学全体の評価が低くなる。評価が低いと政府の補助金がもらえなくなり、大学のイメージも悪くなる、そうなれば新入生が来てくれない。大学の財政がさらに悪化する。だから就職率が低い学科を廃止するのは仕方ない。

 6月末には、ソウル市にある名門大学も次々に、就職率が低い学科の廃止を発表し始めた。フランス文学科、ドイツ文学科、哲学科、比較民俗学科、福祉学科、物理学科などを廃止し、その分の新入生枠を就職率の高い経営学科に回すという。朴槿恵大統領が旗を振るICT(情報通信技術)政策をチャンスと見て、コンピュータ工学部を廃止してソフトウェア工学部や情報セキュリティ工学部を新設し、就職率を上げようとする大学もある。

 廃止が決まった学科の学生と教授らは、「就職率が低い学科は学問としての価値がないのか」「大学は就職するためのスキルを教えるところではない」「政府は大学を評価する軸に、就職率を選ぶべきではない」と反発している。学生らは、大学側が学生や教授の意見を一切聞かず一方的に廃止を決めたことも悲しんでいた。

 廃止が決まった地方大学の絵画学科の学生らは「ピカソが就職したことあるのか」「芸術を就職率で判断するな」と、大学の外で廃止撤回を求める集会を始めた。6月中旬にはソウル大学をはじめとする全国の大学の芸術学部の学生が集まり、芸術学部の価値を就職率で評価することに反対する集会をソウルにある政府庁舎の前で行った。一部の私立大学では学科廃止に反対する学生らが大学を相手に訴訟を起こす準備をしている。

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