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この冬、韓国では映画「レ・ミゼラブル」が大ヒットしている。「レ・ミゼラブル」を観ないと会話についていけないほどである。
韓国で2012年12月21日に封切した「レ・ミゼラブル」は、1月22日時点で観客数が540万人を突破。ミュージカル映画としては、初めて500万人を越えるヒットとなった。映画チケットの予約サイトでは、封切から1カ月たった今もまだ人気ランキング5位内に入っている(東宝東和によると、1月16日時点の日本の観客動員数は248万人)。また、韓国の劇団による演劇「レ・ミゼラブル」、ミュージカル「レ・ミゼラブル」も連日満員御礼である。
1巻から5巻まであるレ・ミゼラブルの完訳本は15万部が売れた。韓国の書籍市場では、1万部売れれば大ベストセラーと言われる。15万部は驚異的な数だ。
レ・ミゼラブルは韓国で児童書として有名だった。ジャン・ヴァルジャンが飢えた甥のためにパンを盗んだ罪で19年も服役する。仮出所したものの、前科があるため仕事も寝る場所もなく、さまよう。一晩泊めてもらった聖堂で銀の食器を盗みまた捕まる。ところが神父さんは銀の食器は盗まれたのではなく自分が彼にプレゼントしたものだと言い、彼をかばう。さらに、銀のろうそく立てまでも持っていきなさいとジャン・ヴァルジャンに渡す。回心したジャン・ヴァルジャンは正直に生きることを誓い、その後立派な市長になった。めでたし、めでたし。これが、韓国人が知っているレ・ミゼラブルだった。ファンティーヌとコゼット、市民革命の話は登場しない。
映画レ・ミゼラブルを観て、レ・ミゼラブルの本当のストーリーを初めて知り、原作を読んでみたいという学生や大人が増えた
レ・ミゼラブルはミュージカル映画だけに、映画サウンドトラックのCDも3万枚売れた。韓国でCDが売れるのはとても珍しい。3万枚売れれば、ベストセラーと言える。韓国の音楽市場はiTunesのようなモバイルインターネット販売が主流で、CDなしの「デジタルアルバム」が多い。韓国を訪れる日本や中国からの観光客がお土産として買うくらいである。
観客はジャン・ヴァルジャンにわが身を重ねる
韓国の小説家や政治家、俳優、大学教授といった著名人らはSNS上で、必ず観るべき映画として「レ・ミゼラブル」を勧めている。Twitterやポータルサイトの映画掲示板には、こんな書き込みが続いている。
「レ・ミゼラブルを観ている間ずっと泣いていた。ラストシーンでは思わず拍手してしまった」
「極端なほどに広がった貧富の差、激しさを増す市民革命など、今の韓国を観ているようで泣けた」
「ジャン・ヴァルジャンには慈悲と愛を教えてくれた神父様がいた。だけど、現実には慈悲なんてない。貧乏人は一度足を踏み外すと、極貧から抜け出せなくなる。ファンティーヌの身が自分のことのように思えて涙が止まらなかった」
「最後に革命で死んだ人たちが登場し、大勢で『Do you hear the people sing?』を歌う場面で、『もう一度がんばろう』『めげないで立ち上がろう』という気分になれた」
ジャン・ヴァルジャンに感情移入して、2度3度と映画館に足を運んだ人も多い。
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By 趙 章恩
2013年1月30
-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130128/242916/