[日本と韓国の交差点] 白菜の価格が20倍に高騰:キムチ大乱がもたらした社会混乱と政治不信(1)

中国から輸入する白菜に対する関税をゼロに



 「キムチなしでは生きられない。本当に生きられない」。こんな歌詞の歌謡曲があるのをご存じだろうか。韓国人なら誰もが口ずさめるほど有名な歌である。韓国人の食事に欠かせないおかずであり、健康食品として元気の源になってくれるキムチ。今年の秋はこのキムチが食べられなくなるかもしれない!という一大騒動が巻き起こった。


 韓国では毎年秋になると大量に白菜を買い込んでキムチを漬ける「キムジャン」をする。春まで食べるキムチを漬ける家もあれば、1年分のキムチを漬ける家もあるので、とにかく量が半端ではない。4人家族でも20株、30株を漬けるなんてざらである。


 カットされていない丸ごとの白菜を買ってきて、家で4等分して塩を振って一晩寝かせる。それから水気を絞って、唐辛子とにんにく、にら、大根、たまねぎ、なし、もち米粥、牡蠣などを混ぜた薬味を葉っぱ一枚一枚に丁寧に塗る。最後は、丸めて、専用の箱に詰めてキムチ冷蔵庫に入れる。作り方はみんな似ているが、家によって全部味が違うのがキムチの特徴である。



キムチ冷蔵庫が大人気



 昔は同じマンションに住む主婦同士で順番を決めて、今日は101号室のキムジャン、明日は102号のキムジャン、と手伝うのが当たり前だった。キムジャンはけっこうな重労働。なので、この日は、ご馳走をつくったり、出前をとったりする。典型的なご馳走は、豚肉の三枚肉を蒸して、漬けたばかりのキムチに脂ののった肉を包んで食べるものだ。子どもにとってはお祭りのような日でもある。しかし、最近は共働きが増えたせいか、キムジャンなんて面倒だと思う家庭が増えているようだ。キムチをスーパーで買ったり、実家の母に漬けてもらう家がかなり増えてきた。


 キムジャンのキムチは、壷に入れて庭に埋めるのが本来のやり方。だけど、マンション暮らしの人は、みんなキムチ冷蔵庫を使う。キムチが発酵しすぎないように味を長く保ってくれるキムチ冷蔵庫は必需品! ワインセラー兼用、冷凍庫兼用、キュービックをちりばめたど派手なデザインなど、キムチ冷蔵庫の種類は数え切れないほどある。実際にキムチ冷蔵庫に野菜や肉を保存すると、とても長持ちするので手放せない。さらに、化粧品も新鮮に保管できるとして人気を集めている。



失恋も挫折も、キムチで癒す



 韓国人にとってキムチのない生活は考えられない。「どんな料理にもキムチが必要。キムチがないと、胸焼けがして食べられない」という人をよくみかける。イタリアンでも、中華でも、ステーキハウスでも、和食屋さんでも、頼めばキムチを出してくれる。キムチの味でその食堂の良し悪しが決まる。キムチのおいしい食堂はどんなメニューもおいしい、というのが韓国人の信念だ。海外にいても韓国食でないと食べた気がしないという人も多い。(筆者もその一人)


 韓流ドラマが好きな人なら一度は見たことがある場面が、これ。失恋したヒロインが、真夜中ぼそぼそ起きては大きなボールに、ご飯と、冷蔵庫にあるキムチとナムルを適当に入れ、ごま油とコチュジャンをこれまた適当に入れて力いっぱい混ぜる。そして泣きながらやけ食いする。貧乏ながらも夢を追い続ける主人公が、キムチとインスタントラーメンだけで生活しているといった場面もよく登場する。


 男性版やけくそとしては、緑のビンに入った韓国のソジュ(焼酎)を、キムチだけをおつまみに飲み続ける、というシチュエーションがよく描かれる。キムチは、貧乏人でもお金持ちでも、みんなが「これなしでは生きられない」というほど食べる韓国人のソウルフードだからだ。


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By 趙 章恩

2010年10月27日


-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101025/216812/

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