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韓国メディアは2月1日、「偏見なくイスラムの真相を伝えようとした日本人ジャーナリストが殺害された」「亡くなった後藤健二氏はイスラムの友達だったのになぜ。彼は紛争地域に住む子供たちの現状を世界に知らせ、助けた」などの見出しでイスラム国と見られる組織が日本人人質を殺害したことを大々的に報道した。
また、イスラム国に関わる人道的支援をするだけでも狙われることが分かった以上、日本と同じく米国を支持する韓国も安全ではない――という認識が広がっている。もし韓国人が人質となった場合、韓国政府はどう対応するのか、韓国政府の危機管理体制を見直すべきと指摘する韓国メディアが増えている。
一方で、日本政府の今後の対応を気にする報道も続いている。朝鮮日報やソウル新聞、YTNなどは2月2日、「日本、自衛隊の軍事活動を拡大する動き」「再武装の名分を得た日本」「積極的平和主義に拍車、葛藤(韓国との摩擦)予告」などと報道している。日本政府がテロ対策や自国民救助という名目で自衛隊の役割を拡大しようとしている、つまり日本が海外で戦争する国になるのではないかという内容だ。
韓国の検索サイトではこの1週間ずっと、「日本人人質」「日本人ジャーナリスト」が検索キーワードの上位5位内にあった。SNSを中心に後藤健二氏の今までの活動が広く知れ渡り、「助かってほしい」と無事を祈る書き込みが後を絶たなかった。Twitterでは「これ以上イスラム国でジャーナリストが犠牲にならないことを祈る」「後藤健二氏のご冥福を祈ります」というつぶやきが続いている。
韓国人ですら悲しみと怒りを拭えない中、後藤健二氏と湯川遥菜氏の遺族の対応は韓国中を驚かせた。自分の家族が犠牲になったにもかかわらず、「世間をお騒がせして申し訳ございません」「皆様にご心配、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」と謝罪する言葉を先に述べたからだ。これは韓国では考えられない対応である。「危険と知りながら紛争地域に行ったから自己責任だ」という見方もあるが、韓国では渡航が禁止された地域に行って人質となり殺害された人の遺族が、なぜ助けてくれなかったのかと韓国政府を相手に訴訟を起こしたこともあった。
センムル教会人質事件では身代金の支払いに批判
イスラム関連で韓国人が人質となって殺害される事件が過去に何度かあった。代表的なのは故キム・ソンイル氏事件とセンムル教会事件だ。イラクの武装勢力が2004年、米国との貿易を行なう会社で働いていたキム・ソンイル氏を拉致、韓国軍がイラクから撤収するよう求めたが韓国政府はこれを拒否した。これを受けて武装勢力は、キム・ソンイル氏を殺害した。
キム・ソンイル氏は大学でアラビア語を専攻し、大学院に進学する費用を稼ごうとイラクで働いていた。武装勢力はキム氏を殺害する場面を録画した動画をネットで公開した。韓国メディアの報道によると、キム氏を殺害した武装勢力が現在のイスラム国だという。
2007年には、ソウル市郊外にあるセンムル教会の信者23人が、キリスト教を宣教するとして、渡航が禁じられているアフガニスタンに入国。タリバンの人質となり2人が死亡した。タリバンは当時、アフガニスタンにいる韓国軍の撤収を求めていた。韓国政府は身代金(金額は非公開)を払い、韓国軍の撤収を約束して残る21人を救出した。
韓国メディアはセンムル教会人質事件を、「韓国政府が右往左往した末、テロに屈し、タリバンに直接身代金を支払った。韓国軍をアフガニスタンから撤収させたことで韓米軍事同盟の信頼を低下させた。韓国に大きなダメージを与えた事件」と評価した。
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