[日本と韓国の交差点] 韓国鉄道公社、民営化するべきか? しないべきか?

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2013年8月31日、韓国の大邱駅で信号を見間違えて列車が出発し、駅に進入しようとした別の列車と衝突する事故が発生した。そのうちの1本が線路から外れて横にいた別の列車に衝突。3重衝突事故という大事故につながった。線路から外れた列車は車両の横が破れたようにぐちゃぐちゃになった。乗客は窓を割って車両の外へ避難した。2本ともゆっくり走っていたので人命に被害はなかった。

 韓国の民放SBSはこの事故の原因について、「民営化を進めようとした弊害だ。経験不足の乗務員を配置したことが事故につながったのではないか」と分析した。全国鉄道労働組合は、「会社側は、列車の乗務員や駅員は単純業務という理由で循環勤務をさせている。そのせいで事故が発生した」と主張した。循環勤務とは、同じ人が列車乗務員になったり、駅員になったりすることをいう。

 今回事故の起きた列車を運行しているKorail(韓国鉄道公社)は、赤字を理由に人員を削減するため、社員に循環勤務を強要した。これに反対した鉄道組合は7月24日から休日勤務を拒否している。組合員の代わりに熟練者ではない者を乗務させたために事故が発生したと主張する。「循環勤務は民営化するための下準備。事故の責任は民営化にある」というわけだ。

 乗務員は安全運転のため、通過する駅の構造や信号機の位置をすべて覚えておく必要がある。乗務員の経験があっても、一度離れた人が再度乗務員となる場合は40時間以上の教育を受ける必要がある。既に乗務員の仕事をしている者が新しい路線で勤務する場合も同様だ。事故を起こした乗務員は直近の6年間ほど、乗務員ではなく別の業務を担当していた。休日勤務を拒否した組合員を代替するため、8時間の教育を受けただけで乗務員の仕事に戻った。

 循環勤務制にすれば、現在よりも少ない人数で、また新規採用を減らしても列車を運行できる。駅員が足りない時は乗務員を駅員に異動する、乗務員が足りない時は駅員を乗務員に回す。鉄道労働組合の不満は、駅員と乗務員がそれぞれを掛け持ちするようになれば担当者の専門性が落ち、事故につながる可能性が高まるという点にある。乗務員は乗務員の業務に集中、駅員は駅員の業務に集中できるようにしないとまた事故が発生する、循環勤務をなくすべきだとしている。

Korail改革計画

 Korailが行っている鉄道輸送業務は元々、国土交通部(部は省)傘下の鉄道庁が担当していた。韓国政府は2005年に鉄道庁を廃止し、Korailと韓国鉄道施設公団に事業を譲渡した。

 Korailは、国土交通部(部は省)を株主とする公企業で、韓国全土の鉄道輸送業務を独占している。ただし、赤字営業が続いている。国土交通部の発表によると、累積赤字は2013年6月時点で17.6兆ウォン(約1.6兆円)、負債資本比率は435%に達している。

 韓国鉄道施設公団は鉄道庁から線路の設備を引き継いだ。Korailは同公団に線路利用料を支払って、鉄道輸送業務をしている。

 国土交通部は6月26日、Korailを改革するための「鉄道産業発展方案」を発表した。これは大きく3つの計画で構成されている。

  1. Korailではない別の会社(A)を設立して、高速鉄道(KTX)の第3の路線を運営させる。
    KTXは日本の新幹線に相当する。既に2路線をKorailが運営している。計画中の第3の路線の運営を新会社に任せる。
  2. Korailを、4つの会社に――B)旅客運送、C)物流、D)車両整備、E)維持補修――に分割する。旅客運送の会社は持ち株会社を兼ねる。
  3. 2015年以降開通する4つの新規路線と既存赤字路線の運航を民間事業者に開放する。

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