韓国独自の不動産制度に「チョンセ」がある。毎月家賃を払うのではなく、まとまった金額の保証金を大家さんに渡し2年間その家に住む。家を出るときには保証金をそのまま返してもらえる。大家さんは保証金を銀行に預けその利子が家賃代わりになる。チョンセの保証金は不動産価格の2分の1から3分の2ほどである。
新婚夫婦は銀行から融資を受け、それを保証金にしてチョンセで家を借りる。2年間共働きして貯金を増やし、借金を返し、もっと広い家をチョンセで借りる。チョンセを繰り返すのと併行して貯金をため、マイホームを購入する。不動産価格が値上がりすれば売却し、不動産価格のさらなる値上がりが見込める地域にまた家を買う。これを繰り返すことで中流層は家を持ち、財産を増やすことができた。
ソウルの不動産価格は高い。その要因はいろいろ――駅から近い、漢江が見える、緑が多い――が、何よりも重要なのは教育環境である。ソウル大学への進学率が高い高校の周辺のマンション、風水で子供が出世するとされているソウル中心部のカンナム、ハンナムといった地域のマンションやビラほど高い。
中学と高校は、自宅から遠い学校でも申し込めるので、必ずしも進学校の周辺に住む必要はない。だが、学校の近くに住めば子供の移動時間を短縮でき、その間も勉強できることから、進学校の周辺はいつでも不動産価格が高く、チョンセの保証金も高い。
金利の低下が家賃負担の増加をもたらす
不動産価格が暴落していることから、韓国の人々は家を買うことを恐れ、マイホームを購入するより負担の少ないチョンセで住み続けようとする傾向が強くなった。
しかし大家さんは、ウォルセでしか家を貸さない、もしくは、チョンセの保証金を大幅に上げるようになった。金利が低下し、利子で家賃を賄うことが難しくなってきたからである。20年前まで、銀行の定期預金の金利は20%近くあった。だが、10年ほど前から6~8%に落ち込み、ここ数年は3~4%にまで落ち込んでいる。
毎日経済新聞の8月19日付け記事によると、光州市の場合、2011年4月時点でウォルセがチョンセを逆転し、それぞれ69%、31%になった。一方、銀行から借金をして高いチョンセ保証金を準備する家庭もよくみかけるようになった。高校生の子供がいると、「引っ越しで転校し環境が変わると、受験勉強に身が入らないのではないか」と心配になるからだ。
一方で「チョンセ大乱」も始まった。会社はソウルなのに、地下鉄で1時間30分以上離れた京畿道や仁川市に引っ越すのだ。借りる人からすると、ウォルセは毎月まとまったお金が家賃として出ていくので、貯金をするのが難しくなる。このため家賃の高いソウルを離れる決断を下す。
住む家が見つからないことほど惨めなことはない。筆者はまだマイホームを持たずチョンセで家を借りている。なので、契約期間が終わる11月が来るのが怖い。ただでさえ物価が高騰しているのに、これに家賃の負担まで重くなると、生活は苦しくなるばかりだ。老後のことを考えると背筋がぞっとする。
韓国の生活の質は39カ国中27位
国の予算を担当する企画財政部は2011年8月、政府系シンクタンクである韓国開発研究院に依頼して、国連や世界銀行が発表しているデータを分析した「韓国国家競争力分析体系開発報告書」を作成させた。これによると、韓国人の生活の質は2008年、39ヵ国の中で27位(2000年も同位)であった。生活の質は、保健医療費の多寡や病院の接近性、犯罪率や自殺率、失業率、老齢雇用率、貧困率などを総合して評価した。
この報告書によると、2008年生活の質が最も高い国はフランス。2位がデンマーク、3位がオーストリア、4位がチェコ、5位がスウェーデン。日本は19位、米は26位であった。
韓国は2008年、失業率や老齢雇用率などで評価する経済的安全指標において、39ヵ国中で29位であった(2000年も同位)。貧困率の高さは39ヵ国の中で24位(順位が高いほど、貧しい人が多い2000年は19位)。寿命だけは2000の年25位から2008年の20位に上昇した。
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By 趙 章恩
2011年8月24
-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110823/222211/