[日本と韓国の交差点] 飼料高から、農家が牛を餓死させた

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旧正月を前に、デパートや大手スーパー、コンビニがギフトセットコーナーを設けている。韓国にもお歳暮を贈る習慣がある。お正月前の贈り物として人気なのはやはり食品だ。牛カルビ、牛テール(しっぽや牛の骨を24時間以上煮込んでスープにする)、りんご、干し魚、のりなど、世代に関係なく喜ばれるものを贈り合う。

 お正月には法事もあるので、できるだけ韓国産の高級食材を買う。韓国の牛は「ハンウ(韓牛)」と呼ばれ、輸入牛よりも高級な肉として高く売られている。食堂でも、輸入牛のカルビに比べて、韓牛のカルビは2倍以上高い値段がついている。日本で、輸入牛より和牛の方が高くておいしいのと同じだ。


 韓牛の値段は毎年どんどん値上がりしている。コットゥンシム――花のようにきれいなマーブルがあるという意味――と呼ばれるRib Eye Roll は、食堂で食べると1人前150グラムで5万ウォン(約3500円)ほどする。自治体が主催するイベントにソウル市内の農協が参加して「韓牛を安く買える特売イベント」を行うと、毎回2~3万人の人が集まるほど人気が高い。


 ところが2012年1月4日、衝撃的なニュースが流れた。全羅道のある農場で農場主が牛9頭を餓死させたというのだ。10日には同じ農場で牛4頭がまた餓死した。この農場では2011年12月にも牛が十数頭餓死しているという内容だった。飼料は値上がりしているのに牛の値段が安すぎてもう飼えない、という理由で餓死させたという。中央省庁の農林水産食品部はこの農家を「動物保護法違反」で取り調べ、過怠料を賦課すると発表した。


 これに対して韓牛畜産団体は「牛の餓死は虐待ではなく仕方ないことだった」「政府が牛の需要予測、価格統制に失敗したせいで起きた惨事」「牛を飼う農場は、人が死ぬか牛が死ぬかの切羽詰まった状況に置かれている」と反発している。


 動物保護団体が農場に行って調査したところ、農場主は30年にわたって150頭以上もの牛を飼っていた。国際穀物価格の上昇に伴って飼料が値上がりし続けたため、畑を売り、老後のための保険まで解約して対応した。しかし、借金は増える一方で1億5000万ウォン(約1050万円)にまで増えたという。牛を売ろうとしても、価格が暴落していて、飼料より牛の価格の方が安かった。結局、牛に水しかあげられず、牛は次々に餓死した。



牛の卸値は半値に、飼料価格は2倍に



 主婦の1人として、一体何が起こっているのか、驚かずにはいられなかった。スーパーやデパート、食堂で売られている牛肉の値段は値上がり続けているのだ。産地では牛の値段が安すぎて餓死させるしかないなんて、まったく知らなかった。


 韓国消費者連盟が公正取引委員会の支援を受けて、2012年1月、全国641カ所のデパートと食堂の牛肉価格を調べた。この結果、牛肉の消費者価格は値上がり続けていることが分かった。韓牛の中で最も高価な1++等級の牛肉の場合、2012年1月の卸売価格は、2010年10月に比べて22.7%下落した。


 いっぽう消費者価格を調べると、デパートは3%、大手スーパーは12%も値上げしていた。1++等級韓牛100グラム当たり値段は、デパートが1万1738ウォン(約840円)、大手スーパーが8047ウォン(約560円)、市場の精肉店が6873ウォン(約481円)だった。


 韓牛価格に占める小売流通業者のマージンは、2009年には37.5%だったものが2011年には42.3%にまで上昇していることも分かった。デパート側は「肉の管理や包装、加工の仕方によって味も栄養も異なる。その努力をするためには、人件費や運営費を考えると、値上げするしかない」と主張していた。しかし、この調査結果が発表されて以降、「ロッテ、現代、新世界、EMART、Homeplusといったデパートと大手スーパーが流通マージンを取りすぎている」との非難がネットのニュースコメント欄に集中している。



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By 趙 章恩

2012年1月25

-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120123/226410/

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