韓国政府は6月末、携帯電話端末の生産量を2012年までに現在の2倍近い6億台に伸ばすことを目指す「移動通信産業発展戦略」を発表する。サムスン電子やLG電子の世界進出で、携帯電話産業は韓国経済の約7%を占める一大産業に発展している。新戦略の下では日本市場も当然大きなターゲットとなるだろう。
■プラダフォン発売は日本本格進出の象徴
市場調査会社のガートナーによると2007年に11億6000万台規模だった世界携帯電話市場は2010年に15億2940万台、2012年には18億750万台に増える。このため新戦略の目標が達成されれば、世界携帯電話市場のなかで韓国メーカーが占める割合は2007年の21.6%から2012年には33.2%へ高まることになる。
サムスン電子の「ANYCALL」ブランドの携帯電話端末は2007年に世界市場で1億6100万台が売れた。2008年は2億台の販売を目標にしており、モトローラとの差を大きく広げようとしている。LG電子も2007年に世界で8050万台を販売している。特にLG電子はイタリアのファッションブランド大手プラダ(PRADA)と提携した「プラダフォン」や「チョコレートフォン」がヨーロッパでヒットしたおかげで、全世界でブランド価値やイメージが上昇した。
プラダフォンこと「PRADA Phone by LG」は2008年6月から日本でもNTTドコモの端末として発売されることになった。全面タッチスクリーンを採用したこの端末は2007年3月にヨーロッパで先に発売され、世界40カ国で80万台を販売した人気の高いハイエンド端末である。このニュースは日本で大きく報じられ、韓国の端末メーカーがついに本格的に日本へ進出しようとしていると話題になった。
LG電子に限らず韓国の携帯電話端末メーカーの日本進出が目立っている。世界市場を舞台にシェアを伸ばしているサムスン電子、LG電子、パンテックの3社は、日本は最後に残された大きな海外マーケットであるとして、対日本輸出を強化し始めた。韓国関税庁の資料によると、携帯電話端末の対日輸出額は2006年から拡大していて、2006年は3億4338万ドル、2007年は3億84303万ドルとなっている。
■リストラは進出のチャンス
韓国では、2Gの時代は日本独自のPDC方式のため端末の輸出が難しかった。3Gでは韓国と日本が同じWCDMA方式を採用していることもあり、端末を輸出しやすくなったと言われている。それでも、高度な技術力で開発期間を短縮し年間50種類以上の新機種を世界市場で発売しているサムスン電子やLG電子にとって、端末の仕様をキャリアが決める日本がとても難しい市場であることは間違いない。
しかも日本の携帯電話端末市場はリストラの真っただ中だ。三洋電機が京セラへ携帯電話事業を売却、三菱電機は携帯電話端末市場から撤退、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズはドコモ向けの端末戦略を見直す。普及率が「1人1台」の時代になり新規需要が乏しく、販売奨励金の見直しで買い替えサイクルも長くなり端末の出荷台数も減少すると見込まれている。
逆に言えば、市場の先行きが厳しく日本メーカーが次々に撤退している環境だからこそ、この隙を狙って日本で地位を固められるチャンスがあると期待しているのだろう。携帯大国である日本の3G市場で端末やブランドをヒットさせることができれば、世界市場でのいっそうの競争力アップにもつながる。
■Wibro日本投入も視野に
韓国では日本メーカーの端末はカシオ計算機の「CanU」しか販売されていない。このCanUは加入者が最も少ないLGテレコム専用にもかかわらず、新機種が登場するたびにモバイルマニアが「CanUを使うためだけにキャリアを変えても損はない」というほど注目されている。韓国メーカーとしても、日本製端末の性能の高さは十分に承知しており、日本進出にはじっくりと時間をかける考えだろう。
LG電子はプラダフォン以前にも、2006年からNTTドコモに端末を提供している。2007年にはFOMAハイスピード(HSDPA)に対応したチョコレートフォンを発売した。GSM方式のエリアにも対応した「WORLD WING」端末で、日本市場向けにワインレッドカラーを追加した。世界100カ国でベストセラーとなったチョコレートフォンだが、確実に人気が検証された製品でないと目の肥えた日本のユーザーには受け入れられないという判断から、日本での販売を急がなかった面もある。
サムスン電子はボーダフォンの流れでソフトバンクから端末を発売している。ブランド力があることから日本でもそこそこ売れていて、日本市場シェア1%を記録したという報道もあった。
サムスン電子はモバイルWiMAXの設備を日本に輸出している。モバイルWiMAX というとカード形式のイメージが強いが、韓国では同様の高速無線通信「Wibro」を搭載したスマートフォンも発売されている。まだ決定されているわけではないが、日本のモバイルWiMAXサービスのエリアが拡がり加入者が増えてくれば、自慢のWibroスマートフォンで既存の携帯電話端末市場とぶつかることなくシェアを伸ばしていくことも視野に入れている様子だ。
サムスン電子、LG電子だけでなく経営がかなり改善してきたパンテックも日本進出に積極的である。パンテックはLG電子よりも早く、2005年12月からKDDIのau向けに端末を納入し、韓国メーカーのなかでは初めて日本に進出した経歴を持つ。2007年に骨伝導スピーカーを搭載した「簡単ケータイ A1407PT」を発売するなど、スリムで安いだけでなく機能の面で特徴を持つ端末も出し始めている。
■日本メーカーとの距離縮める
韓国の携帯電話市場では今年、インターネット機能が重視され、タッチスクリーンの簡単な操作でパソコンと変わらない画面表示ができるフルブラウザー搭載端末が増えている。キャリア最下位のLGテレコムは、「OZ」という激安パケット定額プランを始めて、韓国モバイルインターネット市場で最下位からの反撃に出ている。
「OZ」は月約600円で携帯電話からインターネットが使い放題になるだけでなく、キャリアのポータルサイトを経由せず自由にウェブサイトへアクセスできるようにしたのが特徴である。これまで韓国のキャリアはフルブラウザーであってもキャリアのポータルサイト(日本でいうiモードのようなサービス)を経由しないとインターネットにアクセスできず、キャリアと契約していないサイトにはアクセスできないようにしていた。それが「OZ」の登場により携帯電話からもパソコンと変わらず自由にインターネットを使えるようになり、ほかのキャリアもネットワークを開放せずにはいられなくなった。
さらに、SIMカードのロック解除で複数の端末が使えるようになったのも大きな変化だ。海外だけでなく韓国内でも携帯電話に求められる機能は変わり始めているため、韓国のメーカーは国内、世界市場、日本、新興市場など市場ごとに様々な端末を計画しなくてはならなくなった。
移動通信、そのなかでも携帯電話端末を国家として戦略的な産業に育てようとしているだけに、韓国は今まで以上に端末の輸出を強化するだろう。韓国メーカーは熱血で口うるさい韓国ユーザーに揉まれ、ヨーロッパ、アメリカ、インド、中国など世界各国で戦ってきた経験を通じ、どんな状況でも生き残れるタフさを身につけてきた。
世界マーケットの一つとして日本を見ている韓国メーカーと、内需がすべてで日本人ユーザーを熟知している日本メーカーの競争力を比べるのは難しい。しかし日本にとって韓国メーカーは欧米のメーカーより怖い相手になるだろう。世界最大の3G市場で勝ち残れるよう韓国メーカーは必死で、慎重に距離を縮めている。日本のメーカーがまた携帯電話市場から撤退するのを待っているかもしれない。
– 趙 章恩
NIKKEI NET
インターネット:連載・コラム
2008年6月3日