「以前、電話番号を交換した○○ですが、私の顔写真を添付するので確認したら連絡ください」。こんな、SMS(ショートメッセージ)が不特定多数の携帯電話に送信されている。その写真をダウンロードしようとすると自動的に有料コンテンツサイトにつながり2990ウォンが決済される。
この手のスパム詐欺で40万人から17億ウォンを騙し取った犯人と、112万人から117万回に渡り33億ウォンを騙し取った犯人が逮捕された。被害者の中では同じ手法で何度も騙された人がいた。携帯電話料金の明細を細かく確認せず、いつもより200~300円増えたことぐらいはあまり気にしない人が多かったのも被害額が膨らんだ原因となった。
小学生向けのコミュニティサイトのメッセンジャーを利用し、「イベントに当選したけど景品を発送するためには保護者の携帯電話番号と住民登録番号が必要」と騙して聞き出し、小額決済で1億ウォン以上を騙し取った犯人も逮捕された。
便利で安心な携帯電話の小額決済システムが、いとも簡単に悪用できる決済方法だったのだ。
日本では電子マネーの利用者が急増している中、韓国では2000年世界初のサービスとして登場した携帯電話の小額決済が益々勢力を拡大させている。
携帯電話の小額決済はキャリアに関係なく利用できるもので、Web画面に携帯電話番号と氏名、住民登録番号を入力すると個人を認証し、その携帯電話に6桁のインスタント暗証番号が送られてくる。これを3分以内にWeb画面に入力すると決済終了。携帯電話の利用料金と一緒に合算請求される。決済代行会社のサイトからリアルタイムで決済内訳、決済時間などを詳細に確認することもできる。
他人の携帯電話番号を盗もうとしても、携帯電話に送られてくる暗証番号も必要なので、名義人の住民登録番号を手に入れ、携帯電話そのものも所持していないと盗めない。クレジットカードより個人認証しやすく便利な支払方法として、ネットユーザーの10人に7人が利用しているという。
カード番号や口座番号が残ることもないし、携帯電話の小額決済なら月々使える金額が決まっているので安心できるということから利用は益々増えている。以前はデジタル音楽や映画VODといった有料デジタルコンテンツの決済が主流だったが、今では書籍、化粧品、衣類などインターネットショッピング全般、宅配便、公共料金、新聞購読料、大学入試願書、国家試験受験料、映画チケット、料理出前などでも使えるようになった。2009年の携帯電話小額決済取引規模は1兆8000億ウォン(約1400億円)、2002年に比べ6倍も成長した。
しかし安全だと思われていた小額決済にも抜け道はあった。より便利な決済のために、1回の課金が3000ウォン(約220円)未満の場合、住民登録番号を使った個人認証をしなくても決済できるようにしたところ、すぐに悪用されてしまったのだ。それが上記、一連の詐欺事件である。
電子マネーやモバイル決済のように手軽な決済手段が増えれば増えるほど、それを悪用した犯罪の手口も巧妙になる。200~300円の小額だから仕方ないとあきらめてしまうと、犯罪は繰り返され被害が大きくなってしまう。知らない相手からの親しげなメールは無視するのが一番だが、騙されたと気付いたらすぐ警察や関連団体に届け出ることで似たような犯罪を食い止められる。
韓国は住民登録番号があるから楽に個人認証できて安心、と思いきや、その住民登録番号のせいで被害に合うことも増えている。何事も光あれば影があるものだけど、日本も個人識別番号制度導入には十分気をつけてほしい。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2009年11月4日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091104/1020118/