無料音声通話アプリと通信事業者の「タグ・オブ・ウォー」再び

.

韓国でスマートフォンを買ったら真っ先にインストールするアプリとして有名な「カカオトーク」に2012年6月4日、無料の音声通話機能(ボイストーク)が追加された。カカオトークは電話番号さえ分かれば友達登録をして、メッセージを送受信できる人気のメッセンジャーアプリである。

 カカオトークによると、5月末時点で利用者は全世界で約4700万人、韓国内では全国民の7割を超える約3600万人が使っていて、このうち約2100万人が毎日利用しているという。1日26億件のメッセージが送受信されているほどだ。


 ボイストークは韓国に先駆けて日本で先行サービスしているので、日本の携帯電話番号で認証したユーザーの場合は、問題なく同機能を利用できる。









韓国の国民的人気アプリ「カカオトーク」のアプリストア上のサンプル画面(左)。音声通話(モバイルVoIP)機能が追加された操作画面の例(右)。無料で使える。ただし、最も高い料金プランの加入者だけにモバイルVoIPを利用できるようにしたことが、議論を呼んでいる


無料音声通話アプリはもう1年以上前から存在する。ポータルサイトのDAUMやNAVERも提供しているが、利用者が少なかったせいかあまり話題にならなかった。ところが、国民的人気アプリであるカカオトークの無料ボイストークは韓国を揺るがした。通信キャリアがカカオトークに猛反発し、政府機関が仲裁に入ったほどの騒ぎに発展したのだ。

 キャリア大手のKTとSKテレコムは、ボイストークをアクセスできないように遮断するか、最も高い料金制度を利用するユーザーだけに許容すると発表した。無料音声通話アプリは大量のトラフィックを発生させるため、キャリアにとってはとても負担になるからだ。2社は、「今まで数十兆ウォンに上るネットワーク投資をしてきた。カカオトークはそこへただ乗りしようとしている」、「無料音声通話アプリによってキャリアの収益が減ればネットワーク投資はできなくなり、ネットワークの速度や品質が悪くなる」と主張した。


 通信政策を担当する放送通信委員会はKTとSKテレコムに対して、3G加入者の場合は毎月約3800円以上の定額制、LTE加入者の場合は同約3700円以上の定額料金を支払っている加入者だけボイストークを使えるようにしてはどうかと提案した。カカオトークを使えるようにしてほしいという加入者とキャリアとの仲裁に入ったのだ。KTとSKテレコムは約款改訂とネットワークの品質調整を行い、放送通信委員会の仲裁通り、毎月約3800円以上の料金を支払う加入者にだけボイストークを許可することにした。


 しかしユーザーの反発は収まらなかった。国会議員や市民団体を中心に、「ネットワーク中立性」を問題にし始めた。ネットワーク事業者はどんなコンテンツにもアクセスできるようにすべきであると、KTとSKテレコムを批判する動きも出始めたのだ。

 2012年6月13日には、SKテレコムの本社前に野党の民主統合党議員と市民団体が集まって「ネットワーク中立性を守れ」と抗議する騒ぎもあった。同日、国会ではカカオトークとキャリアの社長を呼び、無料音声通話アプリがキャリアの収益に与える影響を分析する緊急懇談会まで開催した。KTとSKテレコムは、米国と英国のキャリアも、最も高い料金制度に加入するユーザーにだけ無料音声通話アプリを利用させていると反撃した。


 無料通話アプリのネットワーク中立性論争はボイストークに限った話ではない。ボイストークの次はアップルのテレビ電話「FaceTime」が待っている。FaceTimeは今までWi-Fiだけで利用できたが、先日(6月11日)発表されたiOS 6からは、3G回線でも利用できるようになるからだ。韓国内のiPhone 4、iPad 2ユーザーは500万人以上と推定されている。ボイストークに比べればまだまだ小さい市場であるが、テレビ電話は音声通話よりも単価が高い。アップルKTとSKテレコムは早速、「FaceTimeもボイストークと同じく、安い料金制度を利用している加入者は使えないようにする」という方針を明らかにした。


 ネットの掲示板には「キャリアにデータ通信利用料を払っているのに自由にアプリが使えないのはおかしい。キャリアの判断で使えるアプリと使えないアプリがあるのは理解できない」、「ボイストークじゃなくても無料音声通話アプリはいくらでもある。いつまで規制ばかりする気なのか」とキャリアを非難する書き込みが増えている。ボイストークをきっかけに、ネットワーク中立性の定義とガイドラインをもう一度明確にしようとする専門家や学者が出てきた。


 一方、シェア最下位のLGU+は加入者増大のチャンスと思ったのか、どの料金制度のユーザーでも自由にボイストークを使えるようにすると発表した。


 同社の場合、ボイストークを自由に使わせることによって、年間500億ウォン(約36億円)ほど収入が減ると見られている。しかしスマートフォンの場合は、音声通話とデータ通信がセットになった定額料金制の加入が必須なため、加入者が音声通話を全く使わなくなったとしても一定の料金がLGU+に入るような仕組みになっている。さらに、無料音声通話アプリを円滑に利用するために加入者は高速モバイルインターネットのLTEを使うようになり、より高い料金制度に加入したがるだろうという見方もある。LGU+は、データ通信のボイストークによる収入減少は一時的にすぎず、フィーチャーフォン(ガラケー)ユーザーがこれをきっかけにLGU+のスマートフォンに乗り換え、加入者が増えることを期待しているようだ。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年6月15日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120615/1052544/

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *