第32回 女性のための時代劇 ~悲しくもたくましい文芸家『黄真伊(ファン・ジンイ)』 |
2006年12月15日
11月、ついに除隊した美男俳優ソン・スンホン氏。待望の初来日ではすごい騒ぎだったと韓国のマスコミにも大きく報じられた。彼を「男3人女3人」の時代から見守ってきた韓国ファンは、日本のファンとはちょっと違う心境。
徴兵を免除してもらうため身体検査記録を偽造した事件で突然の入隊となったソン・スンホンなのに、ソウルタワーで彼の軍生活の写真や帽子などを誇らしげに展示したことで逆の意味で大騒ぎ。韓国の男性たちは「ソン・スンホンは英雄ではない。国民としての義務を守らなかったくせに今さら軍生活を自慢するなんて許せない」と猛反発し、展示会は中止となった。
二十歳そこそこの青春の2年を軍に取られた男性みなさん、その気持ちはわかるけどさ、ソン・スンホンをもうこれ以上いじめないでくれよ~と哀願したくなるほどのバッシング。12月の来日では日本のファンのみんなに暖かく迎えられ、昔のことは忘れドラマや映画に頻繁に出てほしいと願っている。
キム・ジョンハン役のキム・ジェウォン、渋いよね~ (c) KBS (※ 画像はクリックで拡大) |
ソン・スンホンの除隊がもう少し早かったら、絶対このドラマに出てほしかった! と残念なのが『ファン・ジンイ(黄眞伊)』(公式サイト)だ。ここに登場するファン・ジンイの妓夫キム・ジョンハン役。 「ワンダフルライフ」や「ロマンス」に登場したキム・ジェウォンが演じているけど、これをソン・スンホンが演じていたらもっと色っぽく魅力的なドラマになったのではないかと残念だ。
ソン・スンホンって結構時代劇に似合いそうじゃないですか~。おっとキム・ジェウォンファンのみなさん、怒らないでくださいね。 決して今のジョンハン役がよくないという話ではないんです。時代劇初登場のキム・ジェウォンはあの独特の低い声で囁くようにしゃべるし、ドラマの中ではファン・ジンイの才能を高く評価し、いつまでも守ってあげる役だから、「冬ソナ」のヨン様を想わせる。
今日ご紹介するドラマ『ファン・ジンイ』は、ある女性の半生を描いたものだが、韓国人なら誰もが何となく知っている。ファン・ジンイは実存した人物で、朝鮮時代有名な詩人であり妓生(ギセン、芸者)であった。身分は低いものの、芸術的な才能に優れ、何事にもおじけず賢く魅力的な女性だったため、歴史に残る人物となった。今でも彼女を主人公にした歴史小説は広く読まれているし、映画化、ミュージカル化もされた。 彼女の詩はドラマにも登場するが、ヤンバン(貴族)を遠回しにからかったり、女性の恋心を淡く表現したり、「なんて頭のいい人なんでしょう!」と感心してしまう。
細かいストーリーは他のサイトでも紹介しているので、ここでは裏話的なところをお話しよう。
KBSのインターネットでの視聴方法について詳しくは第2回:無料で楽しむ韓国ドラマ 入門編2<KBS>、Conpiaについては第5回:無料で楽しむ韓国ドラマ 入門編5<人気ドラマが揃うお宝サイトConpia>を参照。
●主演はド根性女優ハ・ジウォン
主人公のファン・ジンイ役には「チェオクの剣」や「バリでの出来事」のハ・ジウォン。韓国芸能界一の「ド根性女優」として、任された役にすべてを注ぐことで有名だ。ボクサー役の映画撮影が終わってからすぐ伝統舞踊や楽器演奏の稽古を始め、10日も休めずにドラマ撮影が開始された。事前制作ではないので、その日の放送寸前まで撮影するしかないといういつものパターンだが、毎日伝統家屋のある場所を探し全国を回りながら撮影し、かつらをつけ衣装の着付けだけで2時間はかかるため家にも帰れず、睡眠時間は平均30分で4時間寝られる日はすごく幸せ、という殺人的なスケジュール。そんななかでも、完璧な場面作りのために稽古を欠かさないそうだ。舞踊の先生が「教えなくても自分で感じ取る才能がすごい、芸能人じゃなかったら早速弟子にしたいわ~」と新聞のインタビューで語っていた。
ファン・ジンイ役のハ・ジウォン、韓服がすごく似合ってる。凛々しい姿に見惚れてしまう (c) KBS |
天下のハ・ジウォンも睡眠不足には勝てず、ロケ中ついに倒れ病院に運ばれるという大変な事態になったが、「精神力で最後まで力を振り絞りたい、とにかく頑張るのが私のキャラクターだから」と笑ってインタビューに答える彼女の健気な姿に、もうファンになるしかないと思った。うちの旦那はあまりドラマが好きではないが、ハ・ジウォンだけは大ファンを自称している。「強くも悲しい眼差しや、役になりきる感情表現は、そこらのタレントとレベルが違う」と大絶賛。デビュー作である映画「真実ゲーム」で韓国のアカデミーというべき大鐘賞新人女優賞を受賞したほどだからね。
ハ・ジウォンは2年7か月ぶりのドラマ復帰作に『ファン・ジンイ』を選択した理由として、「コミックやメロドラマではなく真剣な演技をしたかったから」と語った。若いころの苦労は買ってでもせよというが、彼女の苦労は半端じゃないようす。
ベクム役のキム・ヨンエ。全財産を社会に還元すると発表し話題になっている (c) KBS |
主人公だけでなく、注目すべき人物がたくさんいるのがこのドラマの特徴でもある。ファン・ジンイの師匠であるジン・ペクム役は、黄土パック事業で大成功したキム・ヨンエが演じている。彼女は一時期芸能界を引退したが、ビジネスが成功しても演技に対する情熱を捨て切れず、ファン・ジンイでドラマに復帰し、久々の出演とは思えない貫禄と伝統舞踊の上手さで視聴者を驚かせた。黄土パックを毎日使っているせいか、年齢の割には肌がすごく白くてきれい~とついつい見とれてしまう。
18話、ファン・ジンイが自分のものにならないと怒り狂う王族ビョクゲスの八つ当たりで、脚を折られる刑罰をうけることになったベクム。それを知ったファン・ジンイはビョクゲスの妾になると言う。それを知ったベクムは弟子のために、歌と踊りの伝統を継承することに人生を捧げた妓生としてのプライドを守るため、彼女にしかできない鶴の舞を踊りながら絶壁から身を投げ自決する。この場面が本当に素晴らしいんですよ。またビョクゲスも悪いやつなんだけど、整った顔立ちからしてセクシーでカッコいいんだよね~。
ファン・ジンイの左は初恋のウンホ役のチャン・グンソク、身分を越えられず恋の病でウンホは死んでしまう。右はビョクゲス役のリュ・テジュン (c) KBS |
ドラマで使われる韓服は400着以上で、すべて新しく作られた。その内200着以上を主人公のファン・ジンイが着ることになる。薄いシルクに細かい刺繍がすべてと思われていた韓服に、大胆にもオーガンジーや派手な大柄の花の刺繍を施し、水墨画を手描きした。赤、白、緑、黄色、ピンクといういつもの色彩からも脱皮し、黒、からし色、紺色、天然染めの微妙な青など、ファン・ジンイのカリスマを表現できるよう新しいデザインをどんどん取り入れた。
ノリゲは1つ3,000万ウォン(約380万円)、刺繍入りボソン(足袋のように韓服を着る際に身に着ける靴下、指は割れていない)一足60万ウォン(約75万円)など、衣装とアクセサリーだけで総額9億6千万ウォン(約1億2,300万円)もの制作費が使われた。国家指定重要無形文化財が作った刺繍靴や髪飾りも登場し、値段がつけられないと判定されたほど。これを見逃してしまっては惜しい。
『ファン・ジンイ』は韓流の新しいジャンルとして、韓服の美しさ、伝統美容法、詩、伝統舞踊や楽器など、韓国の美を広く伝播するドラマになることは間違いない。
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RBB TODAY : 趙章恩の現地直送「韓ドラ事情 Link