米ITC、アップルがサムスン電子の3G関連特許を侵害したと判定 韓国内では「裁判所マーケティング」との声も [2013年6月7日]

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米国際貿易委員会(ITC)は2013年6月4日、米アップルが韓国サムスン電子の標準核心特許(Standard Essential Patents)である通信方式CDMAの「インコーディング」「ディコーディング」関連特許を侵害したと判定した。

 これは(LTEではなく)3Gモバイルネットワーク関連特許である。この特許を巡ってはオランダの裁判所でもアップルが侵害したとしてサムスンが勝訴したことがある。ITCは、サムスンがアップルにこの特許に関して告知したにもかかわらず侵害した点に着目した。


iPhone4以前のスマホが“特許侵害”と判定


 ITCは特許を侵害した製品であるとして、アップルのスマートフォンiPhone3、iPhone3GS、iPhone4、iPad、iPad2を米国内に輸入してはならないという「輸入中断」まで宣告した。米国外で生産したアップル製品を米国内に輸入して販売してはならないということだ。同じアップル製品でも、米クアルコム製のチップを使っているiPhone4Sの場合は、クアルコムがサムスンに特許使用料を払っているから問題ないという判定になった。


 アップルは、サムスンの標準核心特許はFRAND(Fair, Reasonable And Non-Discriminatory)といって、誰でも特許が使えるようにしないといけないので訴訟の対象にはならないと主張した。だが、ITCは受け入れなかった。


判定勝ちのサムスンだが、新製品は無関係


 今回のITCの判定は2011年6月サムスンがITCに審査要求したもので、再審に再審を重ね、2年の歳月を経てやっと最終判定が降りたものである。サムスンとアップルはお互いに自社の特許を侵害されたとして、ITCに特許を侵害した製品を米で売ってはならないと主張。サムスンはアップル製品を、アップルはサムスン製品の輸入禁止を求めていた。ITCは「関税法」に基づき、特許を侵害した製品を米に輸入できないようにする。


 実は今回の判定は、サムスンにとっては、とても“大勝利”と言えるようなものではない。新製品は輸入禁止の対象にならなかったのでアップルの金銭的な損害はそれほど大きくない。今回はたまたまサムスン有利な判定が先に出たが、「サムスンがアップルの特許4件を侵害したのかどうか」に関するITC判定が8月に行われる予定。8月になったらアップルはサムスンの特許を1件侵害、サムスンはアップルの特許を4件侵害した、という判定で“逆転”される可能性もある。サムスンとしてはITCの判定に満足していられない状況だ。


米国政府vsアップルの対立も背景か


 とはいえ、ITCの判定は韓国で大々的に報道された。世界各国でサムスンとアップルの特許侵害訴訟合戦が続いている中、ITCの判定は今後の判決に影響を与える可能性があるからだ。


 今回のITCによる判定(アップルがサムスンの3Gネットワーク関連特許を無断で使用したという判定)は、現在両者の訴訟の中でも最も注目されている米カルフォルニア北部連邦裁判所の判決とも食い違いを見せる内容だった。ITCが認めれば、米国内の他の裁判所でも同じようにアップルがサムスンの特許を侵害したと判定する可能性が高い。


 一方で、別の角度からの見方もある。アップルは米国を代表する企業ではあるが、納税や雇用を巡っては米国政府と対立している。アップルに米国経済のためのアクションを促す意図で、ITCや米国政府が判定を“政治的”に利用したのではないか、というのだ。



裁判をマーケティングに活用?


 サムスンとアップルは2011年から、世界中の裁判所で30件を超える特許訴訟中である。通常、判決までに2~3年以上かかる。スマートフォンやIT機器の分野は製品サイクルが短く、判決が出る頃には、訴訟対象になった製品は古くなっている。販売差し止め訴訟の結果が出る前に、もう市場から消えているのだ。


 例えば、アップルが訴訟を起こした対象製品は2011年当時の最新機種「GALAXY S2」だが、販売差し止めをするまでもなく、今では“自然に”販売終了している。韓国ないのスマートフォンユーザーたちの反応は冷めている。「両社は無駄な消耗戦をやめて和解し、訴訟に使う時間と金を新製品開発に使えば?」というのがよくある意見だ。


 韓国のマスコミも、アップルがサムスンを訴えたおかげで、サムスン電子の知名度が上がり、ブランド価値も高くなったという、冷めた見方をしている。「裁判所マーケティング」という名称まで付けた。訴訟に使った資金の元は十分に取れたということだ。アップルとの訴訟が始まった2011年夏以降、サムスンのスマートフォンがどんどん人気を集めた。今や、アップルより売れるようになり、世界シェアではサムスンが優位に立った。


 裁判所マーケティングをあまり長々と続けていては、世界中のスマートフォンユーザーが白けてしまうだろう。ITCの判定をきっかけに、再審に再審を重ねていた訴訟もいよいよ決着がつきそうだ。




趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130607/1093643/

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