老舗教科書会社、「スマート教科書」開発にまい進

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2015年から全国の小中高校でデジタル教科書を使えるようにする、という教育科学部(日本の文部科学省に相当)と国家情報化戦略委員会のスマート教育戦略により、最も大きな変化を迎えたのは教科書会社である。

 メイン事業といえる紙の教科書を使う学校が減り、デジタル教科書へ移行するとなると、印刷会社まで抱えている大規模な教科書会社は利益を保つためにビジネスモデルを変えないといけない。


 1948年に創業した韓国の老舗教科書会社「MIRAEN」(大韓教科書から社名変更)は、政府のデジタル教科書開発とは別に、自ら「スマート教科書」の開発を始めた。MIRAENは教科書会社として国定(義務教育の小中学校は国定教科書を使用)、検定、認定(国定や検定のように教育科学部長官が認めた教科書ではなく、自治体ごとにある教育庁が認めた教科書で、教科書の判型や内容が国定・検定よりは自由)教科書の全てを制作・販売している。


 教育科学部によると、2015年以降、紙の教科書とデジタル教科書の両方を検定することを検討しているという。2015年以降デジタル教科書が広く使われるようになれば、今のように国が主導して科目ごとにコンソーシアムも結成してデジタル教科書を開発するのではなく、教科書会社が科目ごとにデジタル教科書を開発し、それを教科書検定機関に提出する方式に変える、ということである。


 MIRAENはほかの教科書会社より一足先に、自社の教科書のほとんどをアプリケーションにして公開し、教科書会社として初めて教師向けデジタル教材アプリを開発してきた。


 さらに、教科書をPDFにした単純なデジタル教科書を脱皮し、2012年からは「スマート教科書」の開発に着手した。動画、音声読み上げ、GPSなどタブレットPCから利用できるいろんな機能、直感的に使えるUIを盛り込んだのが「スマート教科書」である。学生のレベルに合わせて単元ごとに難易度を調整し、学習履歴を管理できるようにもしている。


 デジタル教科書に臆するのではなく、時代の流れに敏感になり、新しい市場を積極的に切り開いていこうとするのが韓国教科書会社の特徴である。教科書会社というと、安定した収益源があるので体質が古く、停滞しているイメージがあるが、MIRAENはベンチャー企業のような明るさ、活気があった。







MIRAENの英語スマート教科書。単元の導入部には英語を学びたくなる動機づけの動画を入れている






MIRAENの社会スマート教科書。「場所」という概念を勉強するためGPSを使う。タブレットPCから使える動画、音声認識、音声読み上げ、GPSといった機能をフルに使いこなせるようにしている




「デジタル教科書の市場を切り開こうとアイデアを練っている」


 同社マーケティング部のホン・ソンチョル次長は、デジタル教科書やスマート教科書の企画を長年担当してきた専門家として有名である。ホン次長の「デジタル教科書で重要なのは使いやすさ。直感的にすぐ使える教科書でなければならない。クラウドコンピューティングにより、いろんな教材と端末をつなげられるので、教師がそれらを使ってうまく授業の設計をできるように教科書会社が工夫しないといけない」という話はとても新鮮だった。うちのデジタル教科書にはこんな機能があります、と自慢する会社は多かったが、使いやすさにこだわり、生徒が理解しやすいよう参考資料をたくさんリンクするのはもちろん、教師が授業しやすいよう授業設計まで念頭においたデジタル教科書を開発しているという話はMIRAENで初めて聞いたからだ。








MIRAENのスマート教科書は使いやすさにこだわっているという。ページの移動やタッチる場所を直観的に分かるようUIも工夫した

 そのためにMIRAENは教育科学部からデジタル教科書用オーソリングツールに選定された「Incubetech」と手を組んで「Incubetech Publisher」でデジタル教科書を制作している。Incubetech PublisherはDTPソフト「QuarkXPress」で制作された出版物をEPUB形式に変換し、変換したファイルを修正・編集できる電子書籍制作ソフトである。このソフトによってEPUBに変換するとどの端末からも電子書籍として利用できる。Incubetechはサムスン電子のタブレットPC「GALAXY Tab」向け電子書籍リーダー「リーダースハブ」を開発した会社でもある。


 ホン次長は、「MIRAENが中心となって電子書籍技術を持っている会社、端末メーカー、通信キャリアと手を組み、デジタル教科書の新しい市場を切り開こうとアイデアを練っている。お金を投資するとなれば投資決定まで時間がかかるが、それぞれの会社が持っている技術やコンテンツを出し合って新しいビジネスモデルを作るのはすぐにでもできるし、負担も大きくない。デジタル教科書市場をリードしたい」と意欲的だ。


 ほぼ独占に近い紙の教科書市場を守ろうと頑なになるのではなく、時代をリードする会社になりたいというMIRAENは、日本のデジタル教科書関連会社にとっても参考になるところがあるのではないだろうか。スマート教科書ビジネスの動きはこれからも注目したい。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年8月3日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120803/1058382/

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