避暑地として人気の釜山・海雲台、「ビッグデータ」で現実的な観光政策を立案 [2013年7月12日]

.
海水浴場沿いに高級ホテルが並ぶ釜山の海雲台(ヘウンデ)は、韓国で人気がある避暑地の1つである。夏になると、長さ1.5km、幅30mの海雲台海水浴場に1日70万人以上の人々が集まり、足の踏み場もなくなる。海水浴場が開場する6月から9月までは韓国じゅうで最も人が集まる場所なので、ビールや食品、家電、化粧品、オンラインゲームなど各種メーカーのイベントも、夏場はソウルよりも海雲台で開催することが多いほどだ。

 海雲台は「スマートシティー」あるいは「スマートビーチ」としても有名だ。海水浴場の入り口にはデジタルサイネージの観光案内スクリーンがある。タッチ式でメニューを選んで観光情報やグルメ情報などを検索できる。もちろん、日本語でも利用できる。


 デジタルサイネージにはカメラが付いていて、海を背景に記念写真や動画を撮影して、自分のメールアドレスにも送信できる。海水浴場周辺のお店ではスマートフォンの電子マネー決済(NFC決済)が使えるので、スマートフォンさえあれば現金はいらない。迷子防止用の位置情報確認腕輪も無料で利用できる。保護者のスマートフォンから子供の位置を確認できるのだ。


“地の利”生かし「ビッグデータ」分析


 釜山市海雲台区役所は、海水浴場や周辺のホテル、レストランを利用する観光客の利便性を高めるために、「ビッグデータ分析チーム」を設置した。韓国の地方自治体の中では初めてチームを設置し、政策立案に役立てている。


 海雲台区役所は2012年夏に、SNSでつぶやかれた海雲台関連の口コミを分析した。その結果、区役所や市が実施していた観光キャンペーンと、実際に観光客が欲しがっていた情報に食い違いがあることを発見した。


 例えば、市や区役所は釜山の名物であるパジョンや豚のクッパといった伝統食を観光客向けに宣伝していた。ところが、つぶやかれた口コミを分析したところ、観光客が釜山で食べたがっていたのは、全国どこにでもある刺身、チゲ、寿司だった。立派なレストランよりは屋台で食事をしたい、夜はクラブに行って踊りたいといった意見が多いという事実も発見した。このようにビッグデータ分析をうまく活用すれば、観光客が関心を持たない情報についてPRするような観光Webサイトに無駄な予算を使わなくて済む。


 宿泊に関しては、市や区役所はホテルやモーテルを観光客向けに紹介していたが、それよりも「ゲストハウス」の方が人気だった。ゲストハウスは2段ベッドに共用のバスルームとキッチンがある格安の宿泊施設である。海雲台に関する英語のつぶやきは、夏よりも釜山国際映画祭が行われる10月の方が多い、ということも分かった。釜山国際映画祭のレッドカーペットにK-POPアイドル誰が来るのかといったことが話題になっていた。



一部の声しか反映しない「卓上行政」から脱却


 初歩的なビッグデータ分析ではあるが、SNSのつぶやき分析結果を基に、2013年の夏は海鮮チゲや刺身のおいしい食堂を観光客向けに紹介できるよう準備している。従来の観光政策は、何人かのモニターを集めてグループインタビューをしたり、Web調査を実施したりする程度だったので、実際に海雲台を訪問した観光客の意見を広く反映した政策とは言えなかった。何をしても「卓上行政」だと批判する声もあった。


 ビッグデータ分析を導入し、膨大なデータから現場の意見をくみ取ることで施設を改善し、的確な情報を提供によって観光客を増やすのが海雲台区役所の狙いである。データを基に政策を立案すれば、観光客だけではなく、施設で働く地元の人々の満足度も上がるというわけだ。


防犯カメラの映像を分析し交通改善


 海雲台区役所は観光政策以外の分野でも、20代向け雇用増加や、防災といった目的でビッグデータを駆使している。交通の改善にもビッグデータを活用。区内にある防犯カメラの映像を分析して、駐車違反や違法駐車が多い地域と時間帯を割り出し、駐車場を増やすか交通システムを見直す計画だ。区役所は、防犯カメラを取り締まり目的で使うよりも、住民・観光客にとって不便にならないようにするためのツールとして使う方針を掲げる。そのためにもビッグデータ分析が必要だと見ている。


 海雲台区役所は、釜山市にあるビッグデータ処理プラットフォーム研究センターと協力して分析を行っている。まず区役所の職員らが政府機関のデータ、区が実施したアンケート調査結果、過去の政策、区のWebサイトに寄せられた苦情や意見、SNS上のデータなどを集める。研究センターが分析ツールを作成し、これらのデータを解析する。区役所によると、個人を識別できないようにしてデータを分析するなど、個人情報保護には配慮しているという。


中央政府もビッグデータ政策推進へ


 韓国では地方自治体だけではなく、中央政府もビッグデータ分析に熱心である。データを分析することでいち早く国家的課題を見つけて解決するために、「国家未来戦略センター」という名前のビッグデータ分析センターを設立する予定だ。


 データを活用した新産業活性化のため、まずは政府の公共データを、極秘事項を除いては基本的に誰でも利用できるように開放。民間のデータ流通も促進できるよう制度を改善する。データ分析に長けた「データサイエンティスト」を育成し、分析を体験できる「ビッグデータ分析・活用センター」も年内にオープンする予定である。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130712/1097503/

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *