野球選手、芸能人、国会議員の共通点 [2007年7月18日]

7月初め、プロ野球チームKIAタイガーズの公式サイトにあるコミュニティが閉鎖された。試合に負けると選手や監督を攻撃する書き込みが集中し、選手らの私生活に関するデマを書き込んだり、その書き込みにさらに悪質なコメントが付けたり、ユーザー同士でKIAタイガーズとは全く関係ないことで大論争を繰り広げたり、迷惑ったらありゃしないことが続いていたせいだ。

 深刻に荒らされていたコミュニティ掲示板は書き込みを削除すると理由もなく削除されたと他のコミュニティで大騒ぎし、悪質なコメントを注意すると相手が先に喧嘩をしかけてきたのに何故私だけをいじめるのかと他のコミュニティの掲示板やブログで罵る…結局KIAタイガーズはコミュニティそのものを閉鎖する方針を決めるしかなかった。


 先週には、教育放送の討論番組で、ある女性歌手が対立する意見を言った男性弁護士に向かって「あなたは子供がいないから分らない。あなたのような人が私のお父さんだったら、想像するだけで嫌だ」など個人攻撃発言を繰り返し、ネットで大騒ぎになった。この歌手のCyworld(韓国のSNSサイト)HOMPYには数十万件のコメントが書き込まれたが、実名で堂々と「死ね」と書き込んだユーザーの多いこと!ネットでの総攻撃を考えると、大人気ない発言をしたのは問題だが、彼女も被害者なのではないだろうか。


 この頃韓国では書き込みそのものよりコメントの方が怖い、と言われている。コメントは単語一言、一行にもならない文章で相手を傷つける画期的な方法なのかもしれない。韓国のポータルや新聞サイト、コミュニティ、ユーザー投稿型動画サイト、行政サイト、ブログ、ほぼ全てのインターネットサイトは記事の下やユーザーの書き込みに対して自由に一行ほどのコメントがつけられるようになっている。このコメント欄に書き込まれる無数の悪プル(悪質+リプル=英語のReplyに当たる韓国語)に管理側もお手上げ状態だ。7月からはインターネット実名制度が始まり、本人認証を経たうえで、会員登録してログインしないと書き込めないが、それでも!実名でも!好き放題言いたい放題書き込むユーザーが減らないのはどうしてだろうか。


 コメントが怖い、というのはコメントに書き込まれたことがどんどんコピーされ、いつの間にかそれが事実のように口コミで広がっていくからだ。ただし、芸能人の間では自分の記事に何もコメントがつかない無プルの方が怖いという。悪プルも関心があってのことなので、コメントの件数が人気のバロメーターとも言われているからだ。


 国会議員も悪プル被害の常連だ。6月、国会議員143人を対象にした調査によると、68%の97人が自分の書き込みやニュース記事の下に悪質なコメントがつけられたことがあると答えた。悪プルを経験したサイトは自分のホームページが71%で最も多く、ポータルサイト14%、インターネットニュース記事6%の順で、対処方法として、64%は無視すると答えたが、削除を要求するかさらにその下にコメントの書き込みを止めるよう要求するという人も26%いた。


 インターネット実名制度が開始される前からポータルやニュースサイトは個人認証して会員登録し、ログインしないとコメントを書き込めないようになっている。他人の名義を盗用したなりすましの場合もあるが、警察庁のサイバー捜査隊に依頼するとポータルに会員情報を要求しIP追跡をして悪プルを書き込んだ人をいとも簡単に探してくれる。最近の裁判では悪プルを書き込んだ人のほとんどが侮辱罪で罰金刑を受けている。


 捕まった犯人は、大学教授だったり、著名人だったり、小学生だったり、信じられないくらい多様だという。ネットを荒らす主犯として嫌われ者になっているコメント機能だが、一方ではコメントこそ本当の意味でのコミュニケーションであると、厳しく規制することに反対する声もある。日本でもインターネット新聞やブログを中心にコメントを書き込めるようにしたサイトが増えているが、韓国の例から考えると、慎重に管理ルールを決めてから導入した方がいいかもしれない。


 ネットでは悪プルに対抗する市民運動として善プル運動が始まっている。どんなに規制してもなくならない悪プルに傷ついたユーザーに心温まるコメントを書き残して癒してあげようとする運動で、ある大学の教授が理由もなく悪プルを書かれた掲示物を10件検索し、それに対して善良なコメントを書き込み、悪プルに関する自分の意見を述べようという課題を出したのがきっかけという。


 企業もスポンサーになり、自社サイトのコミュニティやブログなどで善プルをもっともたくさん残したユーザーに景品をあげるイベントも開催している。もっとも、懸賞のせいか今度はまた「全く知らない人が自分のブログに意味のない善プルを書きまくっている、どうにかしてほしい」という苦情が絶えないらしい。


 何事も手加減なし、「ほどほどに」が通用しないのが韓国ネットユーザーの特徴なのかもしれない。その情熱が大量のアーリーアダプター(最新製品を好んで購入し、何事も他人より先に経験したがる人)を産み、韓国が世界のITテストベッドとして注目されるようになったのは確かだ。また熱しやすくて冷めやすい韓国の国民性だけど、悪プルだけはおさまることを知らない。日ごろのうっぷん晴らしを悪プルでするのもそろそろ飽きてきてもよさそうなものと思うのだが。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070718/277657/

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