電化製品も芸術的な感性で選ぶ [2007年4月3日]

フィギュアスケート世界選手権で史上最高得点を獲得しながら緊張しすぎたせいか3位に落ちてしまった韓国のキム・ヨンア選手。腰の負傷がなかなか治らず毎回鎮痛剤を打っての試合だそう。それもそうだろう。スポンサーになってくれる企業が見つからず、日本の選手とは比べにならないひどい待遇を受けているからだ。世界どこに行くにも飛行機はいつもエコノミー、ホテルに泊まるお金もなくて韓国人が経営する民宿に泊まっているんだと。こんな環境で負傷が治るわけがないのにあれだけの才能を発揮していること自体が奇跡ではないだろうか。

 韓国の企業はどうしてスポンサーになってくれないんだろう。こうなったら日本の企業がキム・ヨンア選手をサポートして、日韓友好に役立ってほしいものだ。


 スポーツ大会でフィギュアスケートやシンクロナイズドスイミングなど、芸術性を争う種目には弱かった韓国だが、特に芸術性に優れているというキム・ヨンア選手の影響だろうか、芸術に目覚め始めた産業分野が多い。その中でも目立つのが電化製品だ。


 LGテレコムから発売されたカシオのCanU端末(モデル名canU701d、写真1)は白い端末をキャンパスにして画家5人と漫画家5人に作品を依頼し、「アートCanU」というモデルを用意した。限定500台のうちに400台をインターネットで予約発売したところ、1台80万ウォン(約10万4000円)もするにも関わらずあっという間に売り切れたという。絵が描かれていない普通のCanUは50万ウォン(約6万5000円)だ。



写真1:LGテレコムが発売したCanU端末


 ネット連載漫画で有名な作家から大学教授を務める画家に至るまで、幅広い作家の作品を集めたおかげで若い世代はもちろん、携帯電話にあまり興味がなさそうな中年層までも所蔵価値があると予約販売に飛びついたそう。デザインだけでなく、機能面でも、衛星モバイル放送受信、360度回転する液晶、MP3再生、おサイフケータイ対応と充実している。


 LG電子の携帯電話「シャイン・デザイナーズ・エディッション」(写真2)は鏡のように光る端末の裏側に詩を彫刻した。パリで活躍しているファッションデザイナー「イ・サンボン」がアレンジしたハングル文字で彫刻された特別なこの端末は自分だけの高級端末を持っていたいマニア達に大人気で、LG電子の携帯電話端末そのものの評価も上がった。



写真2:シャイン・デザイナーズ・エディッション携帯電話



 サムスン電子は韓国で最も有名なファッションデザイナー「アンドレ・キム」がデザインした皇室花柄を、LG電子は西洋画家「ハ・サンリム」の花をモチーフにアート家電に力を入れている。


 アート家電の種類も洗濯機、冷蔵庫(キムチ冷蔵庫も)、エアコン、炊飯器など幅広い(写真3から5)。アート家電はプレミアムと呼ばれる高機能ブランドの新商品として発売されるが、値段もさらに15%ほど高くなるのでシンプルな白物家電の2倍近くなる。それでも2006年に販売されたプレミアム冷蔵庫の70%、エアコンの72%はワイン色をベースにゴールドで花や蝶々を描いた派手なデザインだった。LG電子はエアコンや冷蔵庫のパネルにきらきら光るスワロフスキークリスタルまで施している。家電もアクセサリーの時代だろうか、優れた機能は当たり前、これからは独特なデザインでないと消費が活発な高所得層の顧客をつかめない。


添付画像
サムスン電子のキムチ冷蔵庫(左、写真3)とエアコン(右、写真4)





写真5:LG電子のクリスタルを使ったエアコン


 このようなアート家電発売を専門用語ではテカルト(techart)マーケティングという。技術(technology)と芸術(art)の出会いで消費者の感性を刺激する製品やブランドを追及するマーケティングだ。これは韓国だけでなく世界的な傾向のようで、サムスン電子とLG電子は中国やヨーロッパ、中南米向け製品もアート家電で勝負する計画だ。


 テカルト(techart)マーケティングについてサムスン電子広報チームは、「この頃の家電はメーカーごとの差を感じないほど機能もデザインも優秀だ。その中で差別化するためには希少価値が必要だが、それでアートに目を向けるようになった。限定発売でいくつか試してみたエアコンや冷蔵庫のイラストパネルが予想以上の販売を記録したので、今ではキムチ冷蔵庫、洗濯機、携帯電話もアートが重要になってきた」と説明した。


 メーカーによるとアート家電は年齢を選ばずよく売れているそうだ。新婚夫婦向けの中小マンションはリビングからキッチンが丸見えなので、高くてもインテリア効果のある家電を選びたがるし、中年層もどうせ買い換えるならちょっと高くても話題の人気商品を買って自慢したいと思うようだ。経済権が夫より主婦にあるという家庭が増えてきたのも女性好みのアート家電が売れる理由かもしれない。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070402/267133/

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