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今週、韓国のTwitter上では「コードレスフォンの子機で電話を受信するだけで18万円の過怠料」というニュースが話題になった。デマではないかと疑ったが、テレビのニュースにも登場した。
「2014年1月1日から、900MHzの周波数帯を使うアナログコードレスフォンの子機で電話をかけたり、電話に出たりすると、周波数不法使用に当たり電波法違反で行政処分の対象になる」「過怠料として200万ウォン(約18万円)を支払わないといけない」という内容だった。
その理由は、韓国政府の通信政策を担当する未来創造科学部が2011年に900MHz帯を大手通信事業者(キャリア)のKTに割り当て、LTEサービスのために使うようにしたことにある。KTは、900MHz帯は電波干渉が多いとしてサービスを始められずにいた。900MHz帯の電波を使うアナログコードレスフォンを使用すると、同じく900MHzを使うKTのLTEサービスの電波と干渉し、信号が途切れたり、速度が遅くなることもあるという。
KTは2013年8月、LTE-Advancedのために1.8GHzの周波数帯を「落札」した。1.8GHz帯と900MHz帯を使い、基地局の負荷を分散してより通信速度を早くする「キャリアアグリゲーション」でLTE-Advancedサービスを始めるとしている。そのためにも未来創造科学部に「電波干渉問題を何とか解決してほしい」と要請していた。
周波数帯使用期限が迫るまで、政府は周知せず
未来創造科学部は、900MHz帯を使うアナログコードレスフォンは2003年から2006年にかけて販売されたもので、まだ10万人近くが使っていると説明した。2007年からは1.7GHz帯や2.4GHz帯の周波数を使うデジタルコードレスフォンだけ販売しているので、最近購入したコードレスフォンは問題ないという。ところが、インターネットショッピングモールでは、今も900MHzのアナログコードレスフォンが販売されている。
未来創造科学部は、2006年10月の時点で「コードレスフォンの900MHz帯周波数使用期間は2013年12月31日まで」と決定したとしている。しかし未来創造科学部はあと2カ月半で10万人以上の人が過怠料を払うことになるかもしれない重要な事項を、Webサイトに告知文を掲載しただけで、何も宣伝活動をしていなかった。
世論の非難を浴び、韓国政府は“方針転換”
Twitterやテレビニュースなどでこのことが知れ渡ってから、「政府はKTのために国民を犯罪者にする気か」「Twitterをしていなかったら何も知らず毎日18万円ずつ過怠料取られるところだった。怖い」と未来創造科学部を非難する意見が広がった。人気アイドルや著名人らも、Twitterで「今回のコードレスフォン過怠料はひどすぎる。電話に出るだけで18万円の過怠料なんてあり得ない。政府は企業の肩ばかり持つな」と政府・未来創造科学部を非難する書き込みをした。
2013年10月12日、未来創造科学部は「2014年1月1日から900MHzのアナログコードレスフォンを使うのは電波法違反になるが、個人を対象にした取り締まりや過怠料徴収はしないことにする」と発表した。900MHzコードレスフォンの販売を中止し、時間をかけてデジタルコードレスフォンへと移行することになった。
せっかくの「黄金周波数」が台無しに
未来創造科学部はKTの900MHzの周波数帯域を移動してコードレスフォンとの電波干渉を避けるとしている。そうなると、今度は800MHzを使う別のキャリア・LGテレコム(LG U+)の電波と干渉することになる。LG U+利用者とKTのLTE利用者が4m以内に近づくと電波干渉が起こるという。
電波干渉を早期に解消するためには、900MHzのコードレスフォンを回収して他の物に交換するのが一番いいのではないだろうか。過怠料を徴収しないとしても、900MHzをKT以外が使うのは電波法違反になることには変わりない。
800MHz帯、900MHz帯の電波は携帯電話サービスに向く特性があり、日本では「プラチナバンド」と呼ばれることがある(関連記事)。韓国でもやはり、キャリアが「『黄金周波数』でつながりやすい!」と宣伝し、周波数を前面に出すCMを流している。周波数をめぐる競争や思わぬ問題は今後さらに起こりそうだ。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20131018/1109063/