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2013年9月25日、米Googleのアジア太平洋マーケティング担当者らが韓国を訪問し、動画投稿サイト「YouTube」をマーケティングツールとして利用するためのヒントを紹介した。
この日テーマになったのは「C世代」。最近の若い世代は何よりも映像コンテンツが大好きで、「創造(Creation)」「つなげる(Connection)」「コミュニティ(Community)」「情報を選別・編集する(Curation)」が好き。こうした「C世代」の若者たちはデジタルネイティブで、SNSで人とつながることで情報を取得するだけでなく、情報の生産にも関わり、情報を共有・拡散したがる傾向が強いという。
例えば、YouTubeで人気歌手の音楽動画を視聴するだけで終わらず、気に入った動画のリンクをSNSで友達に教えたり、コメントを残したりする。さらに「歌ってみた」「踊ってみた」という動画を投稿するのが、C世代の特徴である。
参加型プラットフォームがマーケティングの主戦場
韓国ではこのC世代が現在のトレンドリーダーであり、コンテンツ市場の主な消費者である。「これからはC世代がよく利用する参加型プラットフォームのYouTubeを使ってマーケティング活動をすべきだ」というのがGoogleの主張だった。
CMを見るだけでは満足せず、CMの中に飛び込みがる、企業側とコミュニケーションを取りたがるのがC世代。というわけで、韓国ではYouTube上で動画が始まる前に見せる短いCMではなく、映画のような動画や「ドッキリ動画」を制作して載せる企業が増えている。
例えば韓国通信事業者(キャリア)のLGU+(LGテレコム)は、スマートフォンから利用するナビゲーション「U+NaviLTE」の機能を宣伝するため、ホラー映画のようなCMを制作した。地図データのリアルタイムアップデート機能がないナビゲーションのせいで、旅行中に道に迷ってしまった2人の女子大生が、不思議な老人に出会う。こんな場面から始まる10分程度の動画をYouTubeで流している。
結末が7つある参加型動画で口コミ拡大
しかもユーザーは、女子大生がどのように行動すべきかを選択できる。ユーザーの選択によって結末は7つに分かれる。LGU+のU+NaviLTEは、高速モバイル通信のLTEを使って地図データをリアルタイムアップデートできるため、道に迷うことがないというのがアピールポイント。そのためのCM動画だが、ユーザーが参加できることで、見るだけのCMより印象に残る。ゲームのように楽しめるので、「ユーザーが自ら検索してまで見たがるCM」として大きな話題になった。SNSでも動画のリンクが広がり、口コミで広がった。
LGU+側は、「映像コンテンツ消費が非常に増えているため、オンライン広告も画像やテキストだけではなく、映像で制作するようになった。ユーザーが楽しめる映像をもっと制作していきたい」と説明した。
LG電子は「ドッキリ動画」
LG電子のチリ法人が制作した「ドッキリ動画」は、欧米で先に話題になった。面接の時に、面接官の後ろにある窓から見えるビルの外に隕石が落ち、面接を受けている人がそれを見てびっくりして慌てる。しかし窓だと思っていたのは実はLG電子の84インチスーパーハイビジョンテレビ(Ultra HD TV)。画質が良すぎて窓の外を見ていると勘違いするほどだと訴求するためのドッキリだった。
LG電子のチリ法人は、同じくスーパーハイビジョンテレビを使ってエレベーターの底が抜けて落下するかのように見せかけた「ドッキリ動画」も制作した。ネット上で大ヒットした面白動画は欧米メディアで取り上げられ、低予算でテレビCM以上の効果を上げたという。
韓国のアモーレパシフィックという化粧品メーカーは、高周波オーディオフィンガープリント技術(音声認識)を使ったアプリを提供している。YouTubeに掲載した同社のCM動画の音楽に合わせてスマホを振るとポイントが貯まり、割引クーポンがもらえるというアプリだ。
同社は、ダンスアイドルグループ少女時代(Girls’ Generation)のメンバー・ユナが出演するCMに、ユーザーが自分の動画を組み合わせて、2人で一緒にCMを撮影したかのように見せられるアプリも提供する。こうして自分で制作したCM動画をYouTubeやFacebookに投稿できるようにした。企業が一方的にCM動画を制作して動画サイトに載せるのではなく、ユーザーが面白がって自分なりのCM動画を作って友達に共有するという新たな形の動画マーケティングを生み出したのだ。
YouTube利用目的トップは「情報を探すため」
韓国ではスマホが普及する前までは、国内企業が運営する動画投稿サイトが人気だった。だが、スマホが登場してからは、モバイルで利用しやすいYouTubeが最も人気を得ている。Googleが韓国の16歳から60歳代までのインターネット利用者2000人に調査したところ、57%が「動画を観たい時はまずYouTubeにアクセスする」と答えた。
YouTubeを利用する目的は、1位が「情報を探すため」、2位が「音楽鑑賞」だった。文字や写真よりも動画で情報を仕入れようとする人が増えているのだ。また、全体の44%は気に入った動画があるとSNSで友達に教え、50%は動画に表示されたURLリンクをクリックすると答えた。
韓国ではテレビCMをそのままネットに流しても宣伝効果がなく、ネットならではの動画マーケティングが必要だと言われる。動画を観るだけで終わらず、積極的に共有し参加するC世代を対象にした動画マーケティング。さまざまな工夫を凝らした競争がより一層激しくなりそうだ。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130927/1106403/