韓国のIT企業は、なぜ日本進出を夢見るのか

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意外に思えるかもしれないが、韓国は日本をIT輸出の世界重要拠点の一つと捉えて東京に韓国行政機関の拠点を置いたり、日韓のコンテンツ産業の橋渡しをする機関の拠点を置いている。また、韓国の多くの若い人材が日本での就職を望み、政府もそんな動きを支援しているのだ。なぜ、韓国の企業や人は、日本のITマーケットを目指すのか。

韓国の主要世界IT戦略拠点は
東京、シリコンバレー、北京  



 韓国の政府機関には、韓国企業の日本進出をサポートする拠点を東京に置くものがある。その中で、IT分野で中心的なサポートを行っているのが、「大韓貿易投資振興公社(KOTRA)東京IT支援センター」「韓国コンテンツ振興院(KOCCA)日本ビジネスセンター」である。

 KOTRA東京IT支援センターは、2001年に前身のiPark Tokyoとして発足、2008年からはKOTRAが運営を続けている。

 主な支援内容は、韓国ITベンチャーのための東京でのオフィス提供、企業交流のための展示会(韓国IT Expo、KOREA ICT PLAZA)や、セミナー・交流会(Korea IT Cafe)の開催、そして、日本企業に向けた韓国ITビジネスの情報提供などだ。

 KOTRAの在外国IT支援センターは、東京、米国(シリコンバレー)、中国(北京)の3カ所にしかない。東京、シリコンバレー、北京は、韓国IT産業のグローバル化を推進する戦略拠点であり、韓国のIT輸出の三大拠点であるという理由からだ。

 一方、KOCCA日本ビジネスセンターもオープンは2001年で、韓国のITコンテンツメーカーの進出支援窓口として活動している。

 日本のコンテンツ市場動向のレポートの発行、各種デジタルコンテンツの輸出に関する、対日ビジネスのサポートとコンサルティング、日韓両国のコンテンツビジネス活性化のためのイベント開催、日韓コンテンツ企業のネットワーキングイベント開催などを行い、特に、日韓共同制作のコンテンツを第三国に輸出するなどのパートナシップ構築にも積極的に取り組んでいる。

 あるいは、こうした機関のように日本に拠点を置かないまでも、韓国企業のコンテンツを日本に売り込むための商談会を定期的に開催し、日本までの渡航費や参加費などを援助する政府機関や自治体、各種協会は、実は数えきれないほど多い。

日本で認められれば
世界で通じる企業に

 実際、韓国のIT企業は、ベンチャーを中心にこうした機関のサービスを積極的に活用している。彼らが日本のITマーケットを魅力的に感じているのは、大きくは次の二つの理由からだ。

 韓国は、国民番号のIT管理を始めとするサイバーセキュリティへの対応など、IT化によって生じる各種の課題を日本に先駆けて多く経験し、成功事例や失敗事例もたくさん持っていて、そこから日本で起こっている問題に最良のソリューションを提供できる。日本企業が必要としているソリューションで、欧米企業にないソリューションをすぐに提供できるという点が一つ。

 もう一つは、自社のサービスや技術が、日本で通用すれば世界でも通用するという点だ。

 日本企業には独自の商慣行や安全基準が根強く残っていて、システム開発にも細かな注文が多い。品質管理が徹底しており、色々なテストに合格しなければならない。あるいは、24時間体制でサポートをしなくてはならないなど、グローバルスタンダード以上の要求水準が立ちはだかる。

 さながら、日本のクライアントの厳しい要求をクリアすれば、世界のどの国に行っても難しい仕事はない、と言われるほどだ。日本企業の要求の高さは、韓国はもちろん、世界で知られてるので、日本企業と取り引きしていること自体が「仕事ができる企業」という保証にもなるというわけだ。

 それに、日本企業は当初の採用基準が厳しい代わりに、一度契約を取り付ければ長期にわたって継続的に仕事をくれるという点も、韓国の企業に好感を持たれている.

韓国政府の大きな期待と
マーケット事情の間で

 多くの日本のビジネスパーソンは、韓国企業がこれほど日本を「ITマーケット」として重視していることをご存知なかったことだろう。そこで、今一度、話題をKOTRA東京IT支援センターとKOCCA日本ビジネスセンターに戻してみたい。

 KOTRA東京IT支援センターは、韓国のITの専門家や機関、有望なITベンチャー企業が海外進出を目指す際、それぞれにオーダーメードのローカライズサポートを行っている。

 同センターの直井善郎副所長は、「日本企業の優れた点、韓国企業の優れた点に触れる機会を得て、双方を合わせた新しいサービスや技術が生まれる瞬間を目の当たりにしてきました。韓国のITベンチャーは日本企業にはない発想で提案をします。しかも、開発がとてもスピーディ。日本の企業に、こうした韓国ITベンチャーの魅力を伝えたいのです」と述べる。

 東京IT支援センターの“卒業生”には、遠隔サポートソリューションのアールサポートなどがいる。同社は、NTTドコモの「スマートフォンあんしん遠隔サポート®」に採用された技術を開発した。こうしたポテンシャルを持つ多くの韓国企業が、今も同センターを訪れている。

 KOCCA日本ビジネスセンターの仕事は、ITという縛りを外し、もう少し間口を広げてみてもよいかもしれない。

 みなさんは、「駐日韓国文化院」をご存知だろうか。東京・新宿区にある個性的なデザインのビル。ここでは、韓国語教室や韓国映画上映会、韓国の伝統文化を紹介する講演など、毎日、何かしらのイベントを開催している。しかも、ほとんどが無料なので、だれでも気軽にできるという点でも好評だ。

 KOCCA日本ビジネスセンターは、日本が世界有数のコンテンツ大国であるという判断によってここに拠点を置き、日韓のコンテンツビジネス活性化を支援する。

 同センターの李 京垠(イ・キョンウン)センター長は、「今後、センターの機能をさらに拡張し、より多様な韓日ネットワーキングの場を作りたい」と述べる。

 実際、韓国政府からは大きな期待を寄せられるものの、日本のマーケットにはIT産業同様、さまざまな高いハードルがあり、その板挟みになりつつも、KPOPや映像などのコンテンツを日本でどうやって販売していくかに腐心しているのだという。

毎年倍増する来日人材
若い世代は日本で就職

 他方、日本に進出を目指しているのは企業に限ったことではない。韓国経済の落ち込みで長期化する、深刻な就職難に疲れた韓国の若い世代も日本への進出を夢見ているのだ。

 韓国政府の雇用労働部(部は、日本の省)は、日本のIT企業に就職を希望する34歳以下の人を対象に、年に数回「日本就職成功戦略セミナー」を開催している。

 2017年3月のセミナーは申し込み者が多過ぎたあまり、ソウル市内で最も大きな展示施設「COEX」で行われた。セミナーでは、日本語がある程度話せることを前提に、エントリーシートの書き方、面接マナー、日本の経済や日本企業の雇用動向に関するレクチャーが行われた。

 雇用労働部は、「東京オリンピックやアベノミクス効果で、日本の景気は上向いており、韓国とは逆に、求人難のため外国人の雇用も増えている」と説明。同部の支援で日本に就職した韓国の人材は、2014年で338人、2015年で632人、2016年には1103人と倍増近い勢いで毎年大幅に増えている。今年からは、技術分野だけでなく事務職の斡旋も始まった。夏以降は、日本就職に向けた勉強会、合宿、企業説明会も随時開催するという。

 また、ソウル市内には、システムエンジニアとして日本で就職したい人のための「日本IT就職塾」もたくさんある。ここでは、情報処理技師資格証(日本の情報処理技術者のような資格)を持っている人は日本語を勉強し、ITに関する知識が全くない人は、アプリケーション開発の基礎と日本語を一通り勉強する。

 こうした民間の「日本IT就職塾」は、1990年代後半から見られるようになったが、20年経った今でも、根強い人気を保ち続けている。

 日本に進出する韓国企業が増え、日本で就職する韓国人が増えることについては、日本のローカル企業や日本人人材との間での競争が激化する懸念もあるものの、長期的に見れば、日韓双方に良い方向に進むのではないかと、個人的には期待している。


趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

ダイヤモンド online

「コリア・ITが暮らしと経済をつくる国」

2017.4.

 

-Original column

http://diamond.jp/articles/-/125902

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