韓国をIT強国にさせた伝説のゲームがカムバック

韓国をIT強国へと導くきっかけとなった対戦型オンラインゲーム「StarCraft」(1998年)がさらにパワーアップして帰ってきた。日本では聞きなれないゲームだが、米Blizzard Entertainment社が開発したもので、韓国をはじめ東南アジア、北米、南米、欧州では知名度が高く、PCゲーム・オンラインゲームの代名詞のような存在である。

 12年ぶりとなる「StarCraft II」のベータサービスは2010年7月27日、世界同時オープンとなった。韓国では12歳以上のユーザーなら誰でも無料でゲームができる。国内ではダウンロード方式だけの販売で、ベータサービス終了後は「1日」、「1カ月」、「無制限」に分けて課金する。約6000円を払えば、無制限にゲームを楽しめる。




StarCraft IIのロゴ

「StarCraft」は3つの部族から選んで対戦するオンラインゲームで、1998年の発売以来、ゲームCDは世界で950万枚以上販売されている。違法コピーで利用された数を含めると、少なくともこの10倍以上はユーザーがいると言われている。特に韓国で大当たりし、オンラインゲームとしては初めてキャラクター商品が大ヒット。ファンによって小説化されたり、フィギュアが売られたりもした。オンラインゲームがEスポーツとしてプロのリーグ戦として開催されるようになり、「プロゲーマー」という職業が登場したのも、この「StarCraft」がきっかけなのである。


 「StarCraft」はネットワーク上でユーザー同士が出会い対戦をするため、高速ブロードバンドと高仕様パソコンでないと十分楽しめなかった。そのためブロードバンドと大画面パソコンを利用できるPCバン(ネットカフェ)が大ブームとなり、当時は街中PCバンが溢れていた。このゲームをするためにパソコンを購入しブロードバンドに加入した人も少なくなかった。


 あれから韓国産オンラインゲームがどんどん発売され、韓国のデジタルコンテンツ産業のほとんどをゲームが占めるほどにまで成長した。韓国のNCSoft社やNEXON社のゲームは日本、台湾、中国、ヨーロッパのネットカフェならどこでも見かけるほどポピュラーなものになっている。韓国産オンラインゲームが市場を席巻している中、「StarCraft II」が昔の名声を取り戻せるかどうかは、ゲーム大好き熱血ユーザーの多い韓国市場での反応にかかっているとも見られている。


「StarCraft II」は早速韓国で大々的なイベントを開始している。PCバンにプロゲーマーを招待してユーザーと対戦させる古典的なイベントはもちろん、ロッテリアとタイアップした「StarCraftセット」も登場した。セットを食べるとスクラッチカードがもらえ、ノートパソコンや「StarCraft II」利用チケットが当る。ゲーム解説本ももちろん出版されている。


 驚いたのは飛行機のラッピング! その昔ピカチュウが空を飛んだように、韓国を代表する航空会社である大韓航空の飛行機にStarCraftのキャラクターがラッピングされたのだ。マイレージカードにも、リムジンバスにもStarCraftのキャラクターが印刷されゲームファンを興奮させた。大韓航空は「StarCraft」プロリーグのスポンサーでもある(韓国では主な大手企業や携帯電話、パソコンメーカー、キャリアのほとんどがEスポーツのスポンサーとなっている)。





StarCraft IIのキャラクターをラッピングした大韓航空の飛行機


 パワーアップした「StarCraft II」は3Dグラフィックス、音声チャットなどが新しく追加された。それにゲームを駆動するハード容量もかなり多めに使うため、「StarCraft II」のためにパソコンのパーツをアップグレードさせるPCバンとユーザーが増えている。価格比較サイトのDANAWAによると、7月のパソコン部品販売量は4月に比べ142%、前年同期比で120%増えているという。売れたのはハードディスク、メインボード、CPUの順で、「StarCraft II」の3Dグラフィックスを楽しむために部品を買い換えるユーザーが増えているからではないかと分析していた。グラフィックスカード、ゲーム用マウスも売り上げが伸びている。しかし今の「StarCraft II」はまだベータ版。有料サービスが本格化して最終的にゲームを円滑に駆動するためのパソコン推奨仕様が発表されれば、PCバンを中心に、部品の買い替え需要が大幅に伸びると見込まれている。


 スマートフォンやタブレットパソコンにその座を奪われ、デスクトップパソコンの販売台数は減り続けている。パソコンや部品メーカーが「Windows 7の次はStarCraft IIしかない」とまで言い切るほど、パソコンの売り上げを促進できるようなきっかけがしばらくなかったので、なおさら注目度は高い。年々数が減っているPCバン業界にとっても、国民的ゲームだった「StarCraft」への期待は高い。


 「StarCraft」は12年前、IMF経済危機をIT革命で乗り越えたパワフルな韓国を思い出させる象徴的なゲームだけに、小売業界でもタイアップマーケティングすることで、若くて前向きなイメージを打ち出そうとしている。失業、格差、長引く不況に悩む現在の韓国を今度の「StarCraft II」も元気にしてくれるだろうか。注目せずにはいられない。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年8月5日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100805/1026756/

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