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放送形態が変われども 今でも30代以上の韓国国民にはラジオは親しまれているメディア。画像は民間地上波MBCの人気ラジオ番組「今はラジオ時代」のWebサイト
どんなに時代が変わりスマートフォンばかり使うようになっても、韓国人にとってラジオは生活の一部、空気のような存在である。気付かないうちに1日に数回はラジオを聴いている。家にラジオがなくても、バスに乗っても、タクシーに乗っても、お店に入っても、常にラジオが流れている。BGM代わりに店内にラジオ番組を流す食堂や美容院が非常に多いのだ。
韓国の市内バスに乗るとラジオをつけている運転手さんに出会うことがある。最近はサービス向上のためラジオをつけてはならないというバス会社もあるようだが、バスに乗っている間、暇つぶしにラジオが聴けるので私は個人的に好きである。
バスとラジオといえば忘れられない思い出がいくつもある。
学生だったころ、いつもバスで大学に通っていた。午後4時から6時の間バスに乗ると、ほとんどの運転手さんは地上波放送局MBCの長寿ラジオ番組「今はラジオ時代」を流していた。この番組の名物は「笑いがにじみ出る手紙」というコーナー。日常の中で大爆笑した事件を投稿するコーナーである。
ある日の午後、バスの中では「笑いがにじみ出る手紙」が流れていた。バスの中はくすくす乗客の笑い声が止まらなくなり、ついに物語はクライマックスを迎えた。いよいよおちに入る瞬間、「次の停留場は○○です。降りる方はベルを押してください」のアナウンスが。バスの中は乗客のため息に包まれた。アナウンスと車内CMが終わり、スピーカーがラジオに戻ったときには既に番組は終わりCMに切り替わっていた──。
あの時あの笑い話はなんだったのか忘れてしまったが、乗客が一斉に「今いいところなのに……」とため息した瞬間だけは昨日のことのように覚えている。
2008年、ソウル市都市交通本部はバスの中でラジオを流すことを禁止しようとしたことがある。乗客へのサービス向上、運転に集中させるため、などの理由からだ。ところが韓国の大手新聞社である中央日報が実施した世論調査の結果、バス利用者の56.1%が「ソウル市の決定に同意できない」と答えた。こうした世論を反映し、ソウル市は「ボリュームを大きくしすぎない」という条件付きで、バスでラジオを流してもいいことにした。最近はバスの乗客のほとんどがスマートフォンばかり見ていてラジオをつけるバスも減っているが、それでもバスに乗って窓の外を見ながらラジオを聴いていると、なぜか時間がゆっくり過ぎていくような気がする。
90年代までも、韓国の中高生はラジオの深夜番組を聞きながら、リクエストしたい曲や番組で紹介してほしいエピソードをはがきに書いてパーソナリティに送っていた。韓国の30代後半以上の世代は、ほとんどがラジオ番組にはまった思い出を持っている。代表的なラジオ番組はMBCの「星の光る夜に」。この番組のゲストに呼ばれることが一流スターの証とまで言われた。珍問難問続きの高校生人生相談コーナーも面白かった。
MBCは、1995年までラジオ局宛てに寄せられたはがきを展示する「美しいはがき展示会」を開催していた。当時は1日2000通ものはがきがラジオ局に届いたという。自分の便りが選ばれてラジオで紹介されるよう、イラストを描いたり、カラフルにしたり、凝ったはがきを送る人が多く、MBCはそのはがきを捨てるのはもったいないとして展示会を開いたのだ。MBCは2014年、サムスン電子のスマートフォンを使って作成した「デジタルはがき」の公募を行ったこともある。
インターネットの普及とともに、放送局はメールやホームページからリクエストを募集するだけでなく、放送局のWEBサイトからテレビやラジオをリアルタイムで利用できるようにしている。今テレビやラジオで流れている放送を、インターネット経由でパソコンやスマートフォンからも視聴できるようにしたのだ。
地上波放送局は1998年あたりから「見えるラジオ」といって、スタジオ内にカメラを取り付け、生放送でDJやゲスト達の様子を見られるよう動画中継を行った。さらに、放送局ごとにラジオ専用アプリを開発、PCやスマートフォンにインストールすると、インターネット経由でラジオを聴きながら、今流れている曲名を確認したり、見えるラジオを視聴したり、パーソナリティとチャットをするようにリクエストしたり、エピソードを投稿したりできるようになった。
パーソナリティの発言にすぐ反応してチャットで応援したり文句を言ったりできるので、常に番組を作る側とリスナーが双方向でつながっていて生き生きしているのが韓国のラジオ番組の特徴でもある。双方向であるだけに時代を反映した番組作りになっている。昨年受験シーズンには、24時間道路の混雑状況をメインに流す交通放送ラジオ局が、大学受験特集と題して有名予備校講師をゲストに迎え、大学受験対策や入試問題の傾向について解説する特番を何時間も放送していた。生放送らしくリスナーから相談も受け付けていて、受験生の子を持つタクシー運転手さんが電話相談したり、交通放送とは縁がなさそうな専業主婦がチャットで相談したりしていた。
韓国の政府系シンクタンクが2015年夏に公開したラジオの利用動向調査によると、ラジオの主なリスナーは30代以上だった。10代のラジオ利用経験率は毎年急激に減少していて、週に1度以上ラジオを聴く割合は2012年10.8%から2014年5.8%にまで落ちた。20代でも2012年18.9%から2014年11.1%に落ちている。
一方で、ラジオを週1回以上聴いていると答えた10〜50代男女のラジオの聴取時間はどんどん伸びている。スマートフォンを利用したラジオの聴取時間は2012年1日平均54.5分から2014年同77.3分に増加した。
IoT(Internet of Things、全てのものがインターネットにつながる)の時代になってから、韓国ではラジオが聴ける冷蔵庫も登場した。サムスン電子は2016年1月、米ラスベガスで行われた家電展示会CES2016 で展示した「ファミリーハブ冷蔵庫」は、冷蔵庫のドアに21.5インチのタッチパネルとスピーカー、ネットワーク機能を取りつけた。アプリケーションをインストールしてラジオを聴いたり、音楽ファイルを再生したり、スマートテレビとつなげて映像を見たり、他の家電を制御したり、家族写真やメモを掲載したりといったことができる冷蔵庫である。韓国の主婦はキッチンで料理をしながらラジオを聴くのが好きなのかもしれない。時代は変わってもラジオはまだまだがんばっている。