[韓国ソーシャルイノベーション事情] テレビはネットで観るもの? DVDも予約録画もいらない韓国人のテレビ視聴

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「応答せよ1988」は韓国ケーブル局tvNの人気ドラマシリーズ第3弾。主題歌「少女」は1985年に発売されたイ・ムンセの国民的ヒット曲で、若手人気バンドhyukohのボーカル、オ・ヒョクがカバーし各音楽配信サイトで1位を獲得した。



 この頃韓国で社会現象にまでなっている大人気ドラマがある。タイトルは「応答せよ1988」。

 このドラマはタイトル通り、1988年前後を舞台に、当時高校2年生だった男女5人とその家族の物語である。1988年に高校時代を過ごし、今では親になり中年となった40代が、懐かしい自分の青春と親兄弟と一緒に過ごした思い出を振り返り、泣き笑う、そういうホームドラマである。

 韓国人にとって1988年は忘れられない年である。ソウルオリンピックが開催された年であり、民主化運動で政治的に混乱していた時代であり、高度成長期でもあった。1988年を知らない10〜20代にとって「応答せよ1988」は、「あの頃は〜」とお母さんの解説を聞きながら家族みんなで観られる面白いドラマでもある。

「応答せよ1988」はKBSなどの地上波テレビ局ではなくケーブルテレビ局tvNが制作したドラマである。毎週金曜と土曜の夕方、ケーブルテレビに加入している世帯しか視聴できないにもかかわらず、視聴率は16%を超え、ケーブルテレビ史上最高記録を更新した。また同時間帯視聴率1位もキープしている。地上波テレビ局の番組を含め、金土夕方放映している番組の中でもっとも人気があるという意味だ。最近は新聞記事もSNSも「応答せよ1988」のことばかり話題にしている。

「応答せよ1988」が、ケーブルテレビで放映しているドラマにもかかわらず社会現象にまでなれたのは、もちろん何よりもドラマが面白いからである。そしてあと二つ、韓国ならではの事情がある。

 一つは、9割を超える世帯がケーブルテレビを受信できる有料放送に加入していること。もう一つはVOD(ビデオオンデマンド)である。

 韓国では難視聴改善のため、1995年ケーブルテレビが登場した。マンションの場合、テレビを買って壁にアンテナケーブルを差し込んでも何も映らないことが多い。ケーブルテレビかIPTVに加入して地上波テレビ再送信を利用するしかない。

 韓国のマンション団地はその地域のケーブルテレビと団体加入契約を結んでいる。テレビを保有する家庭は、電気代に公営放送KBSの受信料が上乗せされ、マンションの管理費にケーブルテレビ利用料が上乗せされる。「うちはケーブルテレビ観ません」といっても通用しない。全世帯が選択の余地なくケーブルテレビに加入しないといけない。そうしないと地上波放送も観られないからだ。

 ケーブルテレビの料金は団体契約なので非常に安く、50チャンネルほど受信できる基本プランだと月4〜500円しかしない。100チャンネル以上観られて画質もいいデジタルケーブルテレビや4Kケーブルテレビは月1000円ほどする。



 韓国の地上波テレビ局は、インターネットが家庭に普及し始めた1997年から、自社のホームページにテレビ番組の「ダシボギ(다시보기)」を提供し始めた。ダシボギとはもう一度見る、という意味で、テレビで放映した番組をインターネットからもう一度見る、つまりVODのことである。韓国の全テレビ局は、ドラマやバラエティー、ニュースなど、海外ドラマと映画を除くほぼすべての番組をVODで公開している。

 インターネットさえ使えれば、いつでもどこでも好きな時に好きな端末からテレビ番組を視聴できるので、韓国では予約録画がいらなくなった。ハードディスク録画とか、ブルーレイとか、韓国ではあまり馴染みのない言葉である。

 デジタルケーブルテレビ、IPTV、衛星放送に加入している場合、テレビのリモコン操作で見たい番組のVODを視聴できる。料金は月々見放題で1000円以下、都度課金だと1本100〜150円ほどする。リモコン操作で好きな番組や映画のVODが観られるのでとても楽である。


映画館で上映した映画はその後DVDではなくVODで公開する。映画館で封切してから1ヶ月もたたないうちにVODで公開するようになった。最近は映画館とVODの同時封切、試写会も映画館ではなくVODで行うケースが増えている。最初から映画館ではなくVODで公開することを目的に制作する映画も増えている。

 最近はデジタルケーブルテレビ、IPTV、衛星放送に加え、サムスン電子やLG電子などテレビメーカーまでもがVODサービスに熱心で、「どの会社よりも早くドラマの再放送VODを公開する」「どの会社よりも昔のドラマVOD本数が多い」など競い合っている。VODは一度決済すれば、テレビからも、スマートフォンからも、タブレットPCからも、どのデバイスからも利用できる。

 VODが広く普及してからは、その番組がどのチャンネルで放映しているのか、地上波の番組なのかケーブルテレビの番組なのか、そういうことは全く関係なくなった。好きな時に面白い番組を観られるので、視聴者は番組そのものの面白さを評価する。だからケーブルテレビのドラマでも大ヒットする時代になった。

 韓国では視聴率算定方式も変わりつつある。2015年の夏からVOD利用件数も視聴率に含める「統合視聴率」の実証実験を行っている。

 韓国人にとってテレビとはネットで観るもの、VODダシボギで好きな時に好きな端末から好きな場所で観るものになりつつある。



By 趙 章恩
Newsweek コラム&ブログ
韓国ソーシャルイノベーション事情

 2016年1月
-Original column

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