[韓国ソーシャルイノベーション事情] デジタル時代だからこそ価値がある? 韓国で話題の手書き代行ビジネス

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<K-POPの人気アイドルがファンにメッセージを送る際、手書きのメッセージをSNSにアップすることが増えてきた。デジタル全盛の今、韓国では手書き代行などの代行サービスが流行。その背景には深刻な社会状況も見え隠れする──>

 最近韓国にいる時は手にペンを持って文字を書くことをしなくなった。海外に行く際に飛行機の中で入国審査カードを書くことぐらいしか手書きが必要な場面がない。メモを取る時も全てスマートフォンのメモ帳アプリに入力することに慣れてしまった。

 情報化の時代なので、企業や行政機関とはなんでもネット経由データでやりとりするし、日常生活でもスマートフォンでほとんどのことを済ませる。決済もモバイルペイメントなのでサインもいらない。

 贈り物にもパソコンで書いてプリントしたカードや手紙を付けるか、無料メッセンジャーアプリを利用してお店で商品と引き換えられるモバイル商品券とメッセージを送る。年賀状も大抵ネット上でメールアドレスか携帯電話番号宛てに送り合うので、手書きの年賀状を送る機会はほとんどない。そのせいか、最近は手書きのカードを見ると感動してしまう。

 こういう時代だからか、韓国の芸能界では「結婚します」とか「反省しています」とか、ファンに向けたメッセージを手書きし、それを写真に収めて自身のSNSに掲載するのが流行っている。

 つい先日、韓国では「K-POPアイドルご先祖様」と呼ばれる、90年代半ばから2000年代初めにかけて活躍した第1世代アイドル「H.O.T.」のリーダー、ムン・ヒジュンが結婚を発表した時も、マスコミ発表の前に、ファン宛ての手書きの手紙を写真にして自身のSNSに投稿した。以前は所属芸能事務所がマスコミに報道資料を送るか、ファンクラブ経由で知らせていたが、最近は「手書き手紙をSNSに投稿」がルールのようになっている。徴兵で軍にいるアイドルは、ファンサービスとして自筆手紙を軍のサイトに掲載する。手書きだと誠意がこもったとして、ファンにも喜ばれる。字がきれいだったり、自筆イラスト入りだったりすると、さらに人気はうなぎ上りである。

 インターネットでは手書き代行サービスというビジネスも登場した。以前から店内ディスプレイに使うPOPの手書き、メニューの手書き代行などはあったが、代行サービスとして人気があるのは手紙である。

 韓国には日本のメルカリのように、個人同士がなんでも売買できるアプリがいくつもある。そこに2011年あたりから「才能取引」、「才能販売」というジャンルが登場、手書き代行も才能取引として売り込む。

 例えばこんな感じである。

 アプリに会員登録して、売りたい商品、この場合は手書きのサンプルを写真で撮って掲載する。手書きA41枚当たりいくら、1文字当たりいくらなど、値段は販売する側が決める。購入する人はアプリ経由で支払い、アプリ側は15%ほど手数料を除いた分を取引完了後販売者に振り込む。取引完了は購入者が手書きを受け取った時である。購入者が、手書きが気に入らなければ修正も要求できる。修正回数に関するルールや手書きが気に入らなかった時の仲裁はアプリ側が行う。

 手書きは面倒だからと、ワードで書いたテキストを渡して手書きにしてほしいという単純な依頼もあるが、「別れの手紙を手書きで代筆します」、「告白の手紙を手書きで代筆します」といった販売者がいるのを見ると、単純に手書きだけでなく中身まで考えて代行してほしいという人もいるようだ。また、KPOPアイドルのライブで目立つ「手書きうちわ、手書きプラカード作成代行します」という登録者も多かった。

 才能取引には、手書きの他に、パワーポイント資料作成代行、翻訳代行、恋愛相談、毎日の衣装コーディネート、毎朝電話でギターを弾きながら歌い起こしてくれるモーニングコール、本人に代わってインターネットショッピングサイトや企業に苦情を言ってくれる代行サービス、旅行スケジュール提案など、面白い才能がたくさん登録されている。才能取引だけを専門に扱うアプリもどんどん増えている。

 韓国メディアによると、4年制大学を卒業しても正社員になれる割合が非常に低い就職難が続いたことで、失業状態の若い世代がアルバイト感覚でこうした代行サービスに登録するケースが多いという。ごく稀ではあるが、才能取引で本当に才能が開花し、起業する人もいたそうだ。


By 趙 章恩

 

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韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2016年12

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