[韓国ソーシャルイノベーション事情] ポケモンGOの聖地を目指せ! 正式サービス前でもファン誘致に動く韓国地方都市

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 日本では正式サービスが始まったものの、ブームがすっかり落ち着いてしまったようにみえるポケモンGO。海外ではまだまだ、ポケモンGOによる歩きスマホ問題、交通事故などがなくならないほどブームが続いている。ポケモンGOは、もっとも短時間で1000万ダウンロードを達成したアプリになったという。

【参考記事】「Pokemon GO」が変えたリアルの世界

 ゲームのアカウントを売買する米国のウェブサイトPlayerAuction には、ポケモンGOのアカウントを売買するコーナーが登場した。たくさんポケモンを捕まえてレベルアップしたアカウントを数千円から数万円で売買しているが、ほしいポケモンを捕まえてアカウントを譲るというオーダーメイド型のアカウントは999,999ドルの値がついていた。

 米国でもすごい盛り上がりのポケモンGOだが、韓国も負けていない。

 実は、韓国ではいまだにポケモンGOの正式サービスが始まっていない。それでも7月初めから1ヵ月以上ポケモンGOブームが続き、メディアもSNSもポケモンGOの話題が後を絶たない。社会現象にまでなっている。

 8月16日にも、Niantic社が日本、台湾を含めほとんどのアジアでポケモンGOの正式サービスを始めたのに、なぜ韓国だけまだなのかと、複数の韓国の新聞が恨み節の記事を書いたほどである。日本の周りだと、韓国、中国、ロシアではまだ正式サービスが始まっていない。

 韓国はオンラインゲームがきっかけとなって全国の家庭にブロードバンドが普及したといっても過言ではないほど、ゲーム好きの国である。スマートフォンから楽しむモバイルゲームのユーザーも多く、NEXONやNCSOFTなど大手ゲーム会社は日本でもサービスしている。

  それにポケモンは韓国でもアニメが放映されていたので、今の20〜30代はポケモンの世界を理解していて、すぐゲームにはまった。15年ほどまでに、韓国のシャニーという菓子パン会社が、ポケモンシールおまけ入り菓子パンを発売、一大ブームを巻き起こしたことがある。子供たちがシールだけ残してパンを捨てることも頻繁にあって、食べ物におまけをつけていいのかと問題になったほど人気だった。韓国では、「子供のころ夢中になって集めたポケモンシールを思い出す。街を歩くとあのキャラクター達がスマートフォンの画面に出てくるから面白い」と話す人も多かった。

 ポケモンGOのタイミングもよかった。韓国ではスマートフォンが国民の9割に普及、人気のアプリもひと通り経験して、何か新しいアプリはないかな──、という時にポケモンGOが登場した。2011年韓国のキャリアKTがサービスしたポケモンGOに非常に似たARゲーム「Ollehキャッチキャッチ」は、タイミングが早すぎたせいか、なかなかユーザーを確保できず、いつの間にかサービスが終わっていた。

 韓国でポケモンGOが大ブームになった決定的な理由は、地域限定で希少価値があったからともいえる。韓国でポケモンGOに火が付いたのは、7月初旬、北朝鮮の下あたり、韓国の東海岸にある束草(ソクチョ)市ではなぜかポケモンGOをプレイできるという噂が広がったことから始まる。

 真相を確かめるべく、ゲームマガジンの記者らが束草市に行ってみたところ、本当にプレイできることがわかった。韓国では正式サービスをしていないポケモンGOを束草市で記者らがプレイする記事が公開されてから、韓国ではポケモンGOフィーバーが始まった。小中高校と大学の夏休みだったこともあり、ソウルから束草行の高速バスは全席完売が続き、束草市にポケモンGOをプレイしに行くツアーバスが登場した。SNSでは続々束草市でポケモンGOをプレイしている様子が書き込まれた。誰よりも早く新しいことをしてSNSで自慢したい、という国民性も人々をポケモンGOに走らせた。

 ここまでポケモンGOブームが続いている理由の一つに、束草市役所の素晴らしい対応もあげられる。束草市はもともと海水浴場が有名な避暑地であるが、ポケモンGO目当ての観光客が増えると、それを嫌がらず、市役所内に「ポケモンGO司令部」を発足(ポケモンの世界観に合わせて司令部と名付けたとか)、官民が力を合わせて無料の休憩場所や充電場所を提供し、地元の観光とポケモンGOを両方楽しめるルートを作って案内したり、市内の無料Wi-Fiスポットを表示したマップを制作して配布したり、どこにどのポケモンが出るのか案内したりした。束草市民らは地元を「ポケモンGOの聖地」と呼ぶようになった。ところがポケモンという名称を市が使うのは著作権違反になるとかで、ポケモンGOをポケモンGOといえず、「ポケット怪物走れ」というようになった。

 もっとも正式サービス前なので、韓国向けアプリストアにポケモンGOはない。ポケモンGOをダウンロードするためにはAppストアまたはGoogle Playの地域設定を米国にして会員登録、それからダウンロードしないといけない。

 なぜ束草市だけポケモンGOをプレイできるのかはわからない。Niantic社も特に説明をしなかった。韓国で広く信じられている説は、Niantic社がプレイできない地域のGPS情報を設定する過程で、地図をダイヤモンド型に塗りつぶしていったところ、北朝鮮すぐ下にある束草市がダイヤモンドの形からはみ出た。それでポケモンGOは束草市のGPS情報を韓国と認識しないのでプレイできる──というものだ。意図せぬ地域限定ゲームになってしまったことでさらにブームは盛り上がった。

【参考記事】韓国で唯一ポケモンGOがプレイできる町に観光ブーム

 7月22日に日本でサービスが始まってからは、日本から違い韓国の東海岸蔚山(ウルサン)市の一部地域でもポケモンGOを楽しめるようになった。蔚山市にも夏休みを利用してポケモンGOをプレイしようという観光客が急増し、例年の10倍もの観光客が集まったと言う。蔚山市役所は市長の指示で「ポケモンGOサービス支援室」を立ち上げ、ポケモンGOを楽しめるよう街中の無料Wi-Fiスポットと無料スマートフォン充電施設を増やした。ポケモンGOに夢中になって交通事故が起きないよう、公務員総出で観光客の案内をしている。

 韓国メディアの取材に、蔚山市の関係者は喜びを隠せない様子だった。当初、日本で正式サービスがはじまれば釜山あたりもポケモンGOをプレイできるのではないかと期待されたがだめだった。釜山市役所もポケモンGO支援班を稼働する気満々だったのに、残念である。

 韓国政府は、IT業界に「第2のポケモンGOを作れ」という注文を出していて、韓国産アニメ「ポロンポロンポロロ」のキャラクターを捕まえるARゲームの開発が始まった。ポロロも個性的でかわいいキャラクターが多いので、人気を呼びそうだ。


By 趙 章恩

 

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 2016年6月

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