[韓国ソーシャルイノベーション事情] 韓国でもお一人様文化定着 旅行、ご飯も一人が気楽?

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<韓国で日本のシルバーウィークに相当するのが、旧暦のお盆、秋夕(チュソク)。この時期は、都会に出ていた人たちが里帰りし親戚一同が集まる──。だがそんな韓国の姿も変わりつつあるようだ>

韓国では一人で旅行に行く「ホンヘン(혼행)」が流行っている。一人という意味の「ホンジャ(혼자)」と旅行という意味の「ヨヘン(여행)」を合わせた造語である。

世論調査会社のMbrain社が2017年7月韓国19~59歳の男女1000人を対象に夏の休暇計画についてアンケート調査したところ、29.1%が「一人で旅行に行く」と答えた。20〜30代の場合、家族や友達、恋人と旅行に行くと答えた人より、一人で行くと答えた人の方が多かった。

大手旅行代理店Interparktour社が2016年の顧客データを分析したところ、31.6%がホンヘンだった。2016年7月から2017年1月まで国内シティホテルに一人で泊まるパッケージ商品の販売も、前年同期比14%増加した。ここ数年、ソウル市内には外国人観光客向けにシングル部屋ばかりのビジネスホテルが多数オープンしたが、老舗のシティホテルはシングル部屋がないところも多い。ダブルかツインかスイートルームだ。そこにあえて出張でもないのに一人で泊まるパッケージが人気を集めているという。

同じく大手旅行代理店のModutour社も、2012年から2016年までツアー商品を利用した顧客データを分析したところ、ホンヘンの割合が2012年4.5%から2016年19.6%に増えたと発表した。Modutour社によると、ホンヘンに人気の旅行地域は大阪、東京、福岡、ヨーロッパだった。日本の都市がホンヘンに人気なのは、距離が近く気軽に行けて治安がいい、円安で物価が韓国と変わらないかもっと安い、お一人様を変な目で見ない、といった理由からだとか。

SNS上の書き込みも、ホンヘンに関する内容が増えている。Daumsoft社が韓国語で作成されたブログ、Twitter、ポータルニュースを分析したところ、ホンヘンに関する書き込みは2015年1万4703件から2016年1万9706件、2017年は7月末時点で既に1万3345件を超えたほど増え続けている。ホンヘンに関するイメージも「ホンヘンは楽しい」という好意的なものが75%、「ホンヘンは寂しい」といった否定的なものは25%だった。

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韓国といえば血縁、地縁、学縁といった縁故を重視する社会で、何事も大勢でわいわいするのが当たり前という雰囲気があった。数年前までなら旅行ツアーに一人で参加したり、遊園地に一人で行ったりするなんて想像もできなかった。食堂では基本2人前からしか売らず、一人客を断るところもたくさんあった。オンラインコミュニティでは「一人で食事に行くと、食堂のおばさんが同情する視線を送ってきて『元気出しなさい』とサービスしてくれた。友達がいないと思われたみたい」という書き込みをはじめ、「どうしても一人で食べないといけない日はタクシー運転手がよく行く食堂を選ぶ。一人でも入りやすい」、「一人で食事する日は食べながらずっと誰かと電話をするふりをする。忙しくて一人で来たとアピールをすれば変な目で見られない」といったアドバイスもあった。

それが今ではすっかり変わってしまった。一人で食事をするのは何ともない事になり、一人しか座れないテーブル席があるサムギョプサルのお店、一人で入れる食べ放題のお店も多い。

こうした変化の理由は、やはり未婚の一人暮らしの人が増えているからともいえる。

韓国統計庁の「人口住宅総調査」によると、2015年末時点で単身世代は全世帯の27.2%ともっとも多い割合を占めている。15歳以上で未婚の人は2010年1231万2000人から2015年1337万6000人に増えた。30代の未婚率は2010年29.2%から2015年36.3%、40代の未婚率は2010年7.9%から2015年13.6%に増えた。

特に韓国の20代は、子供の頃からずっと不景気の中を生きているともいえる。数年前から20代を恋愛、結婚、出産をあきらめたサンポ世代(サンは3つ、ポはポギ=放棄からとった造語)だと呼ばれるようになり、今ではサンポに加え就職、マイホーム、車、人間関係、夢などあきらめたことが多すぎて数えきれないとして任意の自然数Nを付け、「Nポ世代」と呼ぶようになった。学生時代は受験戦争、大学生になると就職戦争、それでも不景気で就職できず契約職を転々とせざるを得なかったNポ世代は、大勢でわいわい旅行に出かける経済的余裕がないともいえる。

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Nポ世代が就職に成功すると、今度は「YOLO」にはまるようだ。You Only Live Once(人生は一度きり)の略字で2016年あたりから米国で流行り始めた言葉。韓国でもSNS経由で輸入され、「未来に備えるより今を楽しもう」というライフスタイルをYOLOと言っている。

Nポ世代は、がんばっても報われず、仕方なく色々なことをあきらめてきた世代だからか、経済力を手に入れると、これからはいつどうなるかわからない未来のために我慢して貯金するより、一度きりの人生だから人の目を気にせず今を幸せに生きようとするのかもしれない。

それに現在の文在寅(ムン・ジェイン)政権は勤労基準法を改訂し、週52時間しか働けないようにする方針だ。有給休暇も全部消化できるようにする。現在は残業込み週68時間まで働ける。失業対策のためか、一人が長時間労働するより、短時間労働者をたくさん雇う方向へ導こうとしている。残業ができないと収入が減るので困ると反発する声もあるが、テレビや新聞のインタビューに登場するNポ世代は、「仕事もそこそこ、人生もそこそこ楽しみたいから残業禁止がいい」と話す人が多かった。

Nポ世代に影響されたのか、私の周りの30〜50代もSNSにハッシュタグ#YOLOをつけて家族を置いて一人で海外旅行を楽しんだ写真や、一人ご飯の写真をやたらと載せるようになった。一人で何かを楽しむのがおしゃれだと思う人も結構いるようだ。今年は9月30日から10月9日まで10日の連休がある。政府が国内観光活性化と消費活性化を狙い公休日の間の平日を臨時公休日に指定したからだ。韓国では「黄金連休」と呼ばれる10日間ホンヘンがまた増えそうだ。

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By 趙 章恩

 

Newsweek コラム&ブログ

韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2017年9月

-Original column

http://www.newsweekjapan.jp/cho/2017/09/post-12.php

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