[韓国ソーシャルイノベーション事情] 韓国クレーンゲーム大ブームが思わぬ方向へ 何が問題に?

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<今、韓国でブームになっているのがクレーンゲーム、日本でいうところのUFOキャッチャーだ。流行に敏感で、何事にも熱中しがちな国民性のせいで、たかがゲームと言ってすませられない問題も起きている──>

この頃韓国では再びクレーンゲームが人気を集めている。クレーンを使ってぬいぐるみをキャッチするゲームのことで、日本でいうUFOキャッチャーである。オンラインゲームばかりしていた韓国の小学生から大人まで、今はクレーンゲームに夢中になってしまった。SNSの洪水でインターネットに疲れた人たちが逆にアナログの時代に戻りたくなったのかもしれない。今ではスーパーの前にも、食堂の前にもクレーンゲーム機は必ず置いているほどの人気ぶりだ。

かつて日本でUFOキャッチャーの攻略法や達人が話題になっていた時のように、韓国の地上波放送のバラエティー番組ではぬいぐるみをキャッチする技を紹介したり、芸能人らがクレーンゲームで勝負する番組が増えた。YouTubeにも数々のクレーンゲーム名人が登場した。地上波放送の番組には「クレーンゲームの達人」が出演、どんな角度からも狙ったぬいぐるみは逃さない神業を披露して話題になっている。


この達人の職業はカメラマンなのだが、本人のスタジオにクレーンゲーム機を置き、毎日練習しているという。クレーンゲームにはまった理由は、偶然ゲームでキャッチしたぬいぐるみを撮影に来た子役にあげたところ、ものすごく喜んでいい写真が撮れたので、そこから病みつきになってしまったのだとか。

ゲームをするたびにキャッチできるわけではないはずだし、練習のためにゲームセンターにつぎ込んだお金を考えると「ぬいぐるみなんて買った方が安いのに……」とツッコみたくなるが、あくまでも気持ちの問題だ。クレーンゲーム機でぬいぐるみをキャッチできた喜びは、狩りで狙った獲物を手に入れたのと同じ感覚なのかもしれない。

韓国の警察の調べによると、クレーンゲーム専用ゲームセンターは2017年1月末時点で全国1446カ所あり、2年前より20倍も増えたという。これだけ人気が出ると、問題も出てくる。警察はクレーンゲーム専用ゲームセンターの集中取り締まりを行っている。

警察が問題にしているのは、(1)クレーンゲームの中に著作権を侵害したコピー商品のぬいぐるみを入れてないか、(2)ゲームセンターの運営時間を守っているか、(3)景品の価格規定を守っているか、の3点である。


ゲーム産業振興に関する法律によりゲームセンターの運営時間は朝9時から夜12時までで、18歳未満は夜10時までしか入場できないことになっているが、クレーンゲームばかりを置いてあるゲームセンターは、ほとんどの場合24時間無人で運営されているため、深夜時間帯の青少年の出入りを制限できないことを警察は問題にしている。同じくゲーム産業振興に関する法律により、景品は1個5000ウォン相当の品までという決まりがあるが、ドローンやドライブレコーダーといった高価な景品をクレーンゲームの中に入れているゲームセンターもある。

それに予想もしなかった問題も発生した。韓国大田市では、たった2時間でクレーンゲームのすべてのぬいぐるみ約200個をキャッチされてしまったゲームセンターの社長が、客を窃盗と詐欺の容疑で訴えた事件もあった。ネットでは「機械を壊したわけでもなく、ちゃんと利用料を払ってゲームをして景品としてもらったのだから窃盗ではないはず」というコメントが殺到した。警察の判断も同じで、「クレーンゲーム機のコツをつかんで他の客よりたくさんぬいぐるみをキャッチしたとしても、それがクレーンゲームのルールを本質的に変えるものではなく、機械を誤作動させたわけでもない。利用料を払い正当に取得しているから問題ない」という結論になった。

この事件は問題になった客本人が記事のコメント欄に投稿、「このゲームセンターでは1万ウォン当たり12回クレーンゲームをプレイできるようになっていた。1万ウォンを払って3〜8回ほどキャッチに成功、その繰り返しで、2時間で60万ウォンも使った。私はクレーンゲームが好きなだけで詐欺ではない。ここまで上達するのにどれだけお金を使ったことか。クレーンゲームってなかなかやめられないですよね」と嘆いていた。

クレーンゲームを楽しむ人が急増し達人も増えてくると、あちこちのゲームセンターでこの事件と似たようなことが起きるだろう。それにやりすぎも問題である。2000年代中盤オンラインゲーム中毒で過労死したり引きこもりになったりする人が増えて社会問題になった韓国だけに、クレーンゲームブームも心配になってしまう。今度はクレーンゲーム中毒が広がらないよう対策を講じたいものである。



By 趙 章恩

 

 

 

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 2017年5月

 

-Original column

http://www.newsweekjapan.jp/cho/2017/05/post-10.php

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