[韓国ソーシャルイノベーション事情] 高校生たちが考えた給食の食品ロス解決イノベーション「レインボートレイ」

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韓国では昔から食べ残しが出るぐらいでないと客をもてなしたとは言えない、という考え方が根付いている。客がきれいに平らげたのはもてなしが足りない、料理が足りないという意味だとして、客が手をつけようがつけまいがとにかくすごい数の料理を出すのが韓国式のもてなしである。当然食品ロスも大量に発生する。もったいないから無駄なもてなしはやめようというメディアのキャンペーンも数多く行われてきた。

 それに、韓国では一般家庭の食品ロスも減らすため、「食べ物ゴミ(生ごみ)」は専用の有料の袋に入れて捨てるようにしている。自治体ごとに費用や処理法は違うが、ソウル市の場合はどこも食べ残しは燃えるゴミではなく「食べ物ゴミ」として費用を出して処理しないといけない(韓国では燃えるゴミも自治体ごとにある専用の有料の袋に入れて捨てないといけない)。それにもかかわらず、「食べ物ゴミ」はなかなか減らない。

 日本では米粒一つ残さず食べる人が多く、テレビの料理番組では野菜の皮まで捨てずに調理するのを見てとても驚いたものだ。ところが、最近の日本の子供はそうでもないらしい。1月13日付毎日新聞には、大阪市立中学校の生徒が給食を3割も残していて、推計で年間5億円もの食材が捨てられるようなものだという記事が載っていた。大阪市だけが異常に多いから記事になったと思うが、「モッタイナイ」の言葉で代表される食べ物を大事にする日本の精神は失われたのだろうか。

 韓国はもともと食べ残しがあって当たり前の生活環境だからか、給食の食品ロスは学校給食が本格的に始まった1994年以来ずっと問題になっていた。食べ残しが多いとその分無駄な食費を使ったことになる。食品ロスが増えれば環境汚染も問題になる。食品ロスを減らせば無駄がなくなり、その分給食の質がよくなる。学校の教師たちは毎日のように「今日は食べ残しのない日を目指そう」と学生たちを指導しているが、なかなかうまくいかない。

 そこで給食の食品ロスをなくそうと立ち上がった高校生たちがいる。教育熱の高い地域として有名なソウル市木洞(モクドン)にある中高生7人と教師である。元々は海洋汚染の原因について勉強していたところ、原因の一つに食品ロスがあることを知り、これを減らすにはどうしたらいいのかと悩み始めたそうだ。この中高生たちはサムスン電子が毎年行っている「Samsung Tomorrow Solutions」公募で賞までとったすごい学生たちなのだ。

 サムスン電子の公募は人々の生活や社会をよくするイノベーションアイデアを競うもので、2015年度は1235チーム、5823人が応募、12チームが受賞した。受賞すると、アイデアを実現するための費用と賞金がもらえる。入賞チームへの賞金総額は2億ウォン(約2000万円)である。

 アイデア審査は専門家やサムスン電子の役員だけでなく、ネットに各チームのアイデアを公開し、ユーザーによる投票も行った。受賞したチームがアイデアを実現するため、技術的なところはサムスン電子の社員らが助けた。

 レインボートレイは2014年度に最年少チームでありながら最優秀アイデア賞を受賞、2015年度はそのアイデアを実践して社会に影響力を発揮、学校や軍部隊の食品ロスを7割も減らした功績が認められてインパクト賞を受賞した。

 木洞の中高生たちが出したアイデアは「レインボートレイ(ランチプレート)」と呼ばれる給食用食器である。レインボートレイは、韓国の学校や軍部隊、企業の社員食堂など、団体給食の際に必ず使われるステンレス製のランチプレートの底に目印を書き、ここまでごはんを取ったら茶碗1杯分、ここまでは2杯分などと量がわかるようアイコンを入れた。レインボートレイは既存の給食用ランチプレートに線を書くだけなので、製作費もかからないしすぐ導入できる。しかも見た目がかわいい。

 誰もが思いつく簡単なアイデアではないかと思うかもしれないが、ここまで色々な失敗があった。中高校の給食は大きな一枚のランチプレートに食べたい分料理を取るスタイルが定着していた。7人の中高生たちは、なぜ給食を残すのか友たちの様子を観察したという。家ではお茶碗で食べるので、1枚のランチプレートだと、自分がどれぐらいの量を取ったらいいのかわかり難く、どれもおいしそうなのでつい多めに取って食べきれず残してしまう問題があった。そこでしゃもじやお玉のサイズを小さくすることもやってみたがうまくいかなかった。日本ではおいしくないから給食を残し食品ロスが増える問題があるそうだが、韓国では給食の味はあまり問題にならなかった。

 試行錯誤の末、レインボートレイを思いついた。給食用のランチプレートも軽量化し、自分がランチプレートにどれぐらいの食べ物を取ったのが重さを感じられるようにした。自分が食べられる量だけを取る、これだけで食品ロスは画期的に減少した。実際にレインボートレイを導入した中高校では、一人130グラムもあった食品ロスが10グラムにまで減ったという。

 中高校生のアイデアで給食の食品ロス問題を解決できたことは韓国中で話題になった。レインボートレイを使って給食を食べる様子や、食べ物が残らない様子を韓国のテレビ局だけでなく、中国の国政テレビ局「中国中央電視台」まで撮影に来たほどである。

 中高生による中高生のための中高生目線で考えた給食の食品ロス解決イノベーション「レインボートレイ」は、今や全国の軍、企業の社員食堂にも広がっている。



By 趙 章恩

 

Newsweek コラム&ブログ

韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2016年4月

-Original column

http://www.newsweekjapan.jp/cho/2016/04/post-4.php

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