韓国デジタル教科書事情(1)~15年かけて築いてきた教育情報化が花開く

日本でここ最近脚光を浴びているデジタル教科書。2015年までに子ども一人に一台タブレットPCを支給し、紙ではなくマルチメディアの教科書を使って授業し、学校でも家庭でも高速モバイルネットワークを使っていろいろな教育コンテンツを見られるようにするというもの。子ども達が重いランドセルを背負うこともなく、教科書をクリックするだけで百科事典や動画、写真、ニュースなどの参考資料も一緒に見られるので学習効果も高まると期待されている。もちろん、紙を使わないのでエコという点でもデジタル教科書は来るべき未来であり、子ども達のためにも早期に実現させるべき国家政策と言える。

 日本ではデジタル教科書というとタブレットPCや情報端末を先に思い浮かべるが、韓国ではその逆で「どんな端末からも使える教科書」を想定して中身の開発に力を入れてきた。個別学習、個別指導・評価を可能にするインタラクティブな教科書にするために必要な教材、端末、ネットワークが必要で、そのためにはどんな技術を開発すべきなのかに関して議論が続けられてきた。






仁川 トンマク小学校で使うデジタル教科書実験用端末と教科書画面。教科書は家庭のパソコンからも利用できるので端末は学校においたまま使うが、予習復習は家庭にいながらもできる。学校からの告知や宿題の提出などもすべてネットを経由して行う



 韓国の文部省である教育科学技術部の定義を見ると、デジタル教科書とは「学校と家庭で時間と空間の制約なく利用でき、既存の教科書に、参考書、問題集、用語辞典などを動画、アニメーション、仮想現実などのマルチメディアで統合提供し、多様な相互作用機能と学習者の特性と能力、水準に合わせて学習できるように具現化された学生向けの主な教材」としている。つまり教科書の内容をデジタル化して、有無線ネットワークを利用してその内容を見て聞いて書きこんで読めるようにしたものであり、どんな端末やどんなネットワークからも利用できないと「デジタル教科書」とならないので、端末はタブレットPCだけに縛られない。


 また、デジタル教科書はデジタルネイティブ世代に合わせた効果的学習ツールとして脚光を浴びているが、小学生だけでなく、生涯教育の第一歩として導入したいとも考えている。

韓国のデジタル教科書は既に1996年から構想が始まった。それから約15年、デジタル教科書を導入するために国は導入のバックグラウンドとして学校情報化、校務情報化、教育行政情報化、家庭学習情報化を進め、学生の学習情報を記録、分析して保護者に公開するシステムをオープンした。2013年には全国の小学校にデジタル教科書を導入するのを目標に、2007年から600億ウォン(約48億円)を投資して小学校を中心に実証実験を始めている。


 これまでの過程を振り返ると、学校情報化、デジタル教科書構想、教員情報化研修が1996年に始まり、1997年には学校総合情報管理システムが始まっている。これをアップグレードした校務情報化システムとして2002年にNEIS(National Education Information System)が始まった。NEISには子どもの成績や個人情報が記録され、保護者も実名確認をすればいつでも自分の子どもの情報を閲覧できる。このデータが大学に渡されるので大学入試の願書は100%電子化された。


 NEISによってバックグラウンドがある程度固まったところで、デジタル教科書の開発も始まった。小学校5、6年向け英語と数学から実証実験が始まり、2007年には正式に国家戦略として「デジタル教科書商用化推進計画」が発表された。


 2008年から全国の小学校20校を対象にデジタル教科書商用化のための実証実験が始まり、Windows基盤に続いてオープンソース・リナックス基盤教科書開発も始まった。また、「IPTV放課後教室」といって、共働きの家庭のためのサービスも始まった。授業が終わってから家に帰っても誰もいない、経済的事情で塾に行けない子ども達のために、放課後学校でIPTVを使ったEラーニングを利用できるようにした。これも教室のネット環境が超高速ブロードバンドだから実現できたことである。







仁川 トンマク小学校ではデジタル教科書と電子黒板を連動した授業が行われている。紙の教科書と同じ画面が映し出され、タッチすると次々に動画やアニメなどで作られた参考資料を表示。子ども達の学習効果を高める



 2009年からは実験学校を132校に増やし、デジタル教科書が本当に学習効果を高められるのかを研究する「教育情報化成果測定指数開発」にも着手した。


 2010年には教員能力評価制度が実施され、同僚教師・専門家・学生・保護者が教師を評価する。子どもの目線からは、デジタル教科書や電子黒板といったIT機器類をうまく活用して面白く授業を行う教師の評価が高くなっていくだろう。韓国の教員採用試験は700倍とも900倍とも言われる超難関であるため教師のレベルも高く、電子黒板やマルチメディア教材を制作できるようにする研修は義務化されているため、教師が教育情報化についていけない、IT機器を使いこなせないといった問題が起こったのは90年代後半、最初のころだけだった。


 2011年に小中学校の英語・国語・数学の教科書がCD-ROMになり、2013年には、全国の小学校でデジタル教科書を全面的に導入することを目標とする。まだデジタル教科書の端末規格は決まっていないが、スマートフォンやiPadのようなタブレットPCが安くなっているので、デジタル教科書用に一から開発するよりも販売されている中から自由に選択するようにする可能性もある。(次回に続く)



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年11月26日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101126/1028811/

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