韓国デジタル教科書事情(2)~電子黒板は当たり前、10Gbpsネットワークで教室情報化

「韓国デジタル教科書事情(1)」から続く)


 韓国ではデジタル教科書以前からも、NEISやサイバー家庭学習サイトを通じて子どもが学校で何をしてどんな勉強をして、どう学力が向上しているのか、よくできる部分と補うべき部分を分析してネットで保護者に公開している。これは高い教育熱に少子化の影響から、自分の子どもが一番という(モンスターペアレント化する)保護者が増えてきたことで、保護者が学校や教師に不満を持たないよう「見える教育」にするという意味もある。


 また熾烈(しれつ)な大学入試競争の中で、所得の格差による教育の格差、地域差による教育の格差をなくすのもデジタル教科書の役目である。教科書に参考資料がリンクされているので、高い参考書を買わなくても済む。また塾がない山間、離島に住む子ども達もマルチメディア教材を使って個別学習ができるので、塾のある都市まで通う必要がなくなる。長期入院、海外滞在中もデジタル教科書を使えば遠隔授業ができるので休学することなく進級できる。もちろん、教科書改訂を迅速にできるのもメリットだ。



電子黒板とマルチメディア教材を「10Gbps高速学校LAN」で利用しやすく



 デジタル教科書をさくさく動かせるよう教室のネットワークは政府が投資して学校LANを構築し、2010年は実測で全国平均50Mbps、教室の中にはIPTV、電子黒板、パソコンがあり、教師が作ってきたマルチメディア教材で授業を行っている。学校LANの速度は固定で10Gbpsにアップグレードする予定で、一部大学では10Gbpsが導入された。デジタル教科書実験学校でなくても、電子黒板を使った授業は当たり前のように定着していて、教師も教科書の内容に合わせて動画や写真を準備する。


 もちろん、デジタル教科書や電子黒板をより教師が利用しやすいようマルチメディア教材を提供するサイトもたくさん登場した。中でも2009年デジタルコンテンツ大賞を受賞したI-screamは教師向けの教材サイトで、全国小学校教師の98%が有料会員(2010年11月時点)というほど利用されている。教科書の内容に合わせた動画、写真、音楽、テキストが用意されているので、国定科学教科書60ページと検索すればそれに合わせた教材が登場するほど便利になっている。教師はその素材を使ってパワーポイントなどでオリジナル教材を作り、電子黒板で授業を行う。


 教師のパソコン保有率は98年ごろから100%を超えている。教師一人に1台、教室に1台、授業用ノートパソコン、PCルームにもパソコンがあるので教師だけでなく子ども達も既に一人1台、学校でパソコンを使える環境近づいている。


 小学校だけでなく中学・高校でも電子黒板は広く利用されている。黒板を使わず教師はマルチメディア化された教科書を電子黒板に表示させ、タッチ式で重要なところに指で線を引きながら、時々音声ファイルや動画を再生させながら、授業を進める。






高校でも電子黒板を使った授業は当たり前。仁川 デゴン高校の英語の授業では、先生が一方的に教えるのではなく、マルチメディア化された教材を活用して一緒に問題を解きながら解説を加える。学生のレベルに応じて教材を選択、優等クラス、標準クラスに分けて授業を行う


「英語」学習熱もデジタル教科書を後押し



 韓国でデジタル教科書が話題になり始めたのは「英語」とも関連が強い。国際競争力を高めるために英語は必須ということで幼稚園から英語を教え、私立小学校では1年生から英語と中国語を教えている。公立小学校でも3年生から正規授業として英語を教えるようになり、これを1年生からに変えようとしている。


 全国の小中高校には英語のネイティブスピーカーの教師が数人ずつ派遣されている。学校の英語授業に教師は2人以上、つまり、文法は韓国人の教師が担当し、会話や発音はネイティブスピーカーに学ぶ構成になっている。デジタル教科書を使ってマルチメディアを活用すれば、ネイティブスピーカーがいない地方の学校でも都市の学校と変わらない英語教育環境を整えられるのではないかと期待された。デジタル教科書の英語科目には学生が英語を録音し、その波長を分析してネイティブの発音に近づくよう個別指導してくれる機能もある。



スマートフォンやモバイル端末は中高生に必需品



 韓国の教育熱の高さは日本でも有名だろう。高校生になると夜10時まで学校で自習し、それから塾へ行くほどだ。いつも電子辞書、音楽再生、動画再生などの機能があるPMP(Portable Multimedia Player)を持ち歩き、休み時間にはEラーニングで勉強を続ける。韓国ではスマートフォンやモバイルデバイスが教育のためにもマストアイテムになっている。







デゴン高校の学生たちが休み時間や自習時間に活用しているPMP(Portable Multimedia Player)。ほとんどの学生が持っていて、教育放送のインターネット講義を見ながら受験勉強しているという。韓国では2011年の新学期向けにPMPが5型タブレットPCへと進化、それに向けて商戦が始まっている


2009年11月に発売されたiPhoneを追うようにSamsungのGALAXY Sが登場し、海外勢のスマートフォンも出揃ったことから韓国は一気にスマートフォン普及が加速し、2010年9月時点で500万台突破、年末には当初の予測の3倍である600万台を突破しそうな勢いである。2011年には1500~1600万台、携帯電話加入者の約3分の1がスマートフォンを使うとまで予想されている。

 韓国政府は経済的に貧しい、地方に住んでいて周辺に塾がないといった理由から教育の機会を子どもが奪われないよう、公営放送である教育放送のWebサイト上で大学入試講座動画を無料提供している。ここからセンター試験の問題が出題されることから、全国の高校生はほぼ全員この動画を見ている。そこで必要なのがPMPだった。電子辞書も音楽・動画再生機能も搭載されたスマートフォンが登場してから、PMPは無線LAN機能を搭載した学習用5型タブレットPCへと進化した。無線LAN機能経由で教育放送の動画をダイレクトにダウンロードできる機能が目玉となっている(PMPはPC経由でダウンロードする)。(次回に続く)


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月2日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101130/1028847/

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