韓国モバイル業界で奨励金競争再び、端末流通法廃止で家計支出の通信費負担を緩和

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日本では2023年末にスマートフォンの過度な安売りを防ぐ狙いで端末の値引き規制が強化されたばかりだが、韓国では逆の法改定が始まろうとしている。韓国の大統領室、科学技術情報通信部(「部」は日本の「省」に当たる)、放送通信委員会は、家計支出に占める通信費の負担を緩和するために、「移動通信端末装置流通構造改善に関する法律(端末流通法)」の廃止を推し進めようとしている。

 端末流通法は2014年に携帯電話事業者(キャリア)3社、具体的にはSK Telecom(SKテレコム)、KT、LG U+(LGユープラス)による奨励金競争を制限するために生まれた法律である。実際には端末の販売奨励金に制限を設けた。当時韓国では、キャリア3社と端末メーカーの奨励金競争により、同じ機種・同じ料金プランでも販売代理店ごとに端末価格や加入条件が全く異なることが問題になっていた。ある代理店はSNSで0ウォン端末の広告を流し、深夜に先着順で販売するなど、同じ端末なのに大きな価格差が生じていた。そこでキャリア3社の競争軸を奨励金から通信料金やサービスに誘導し、誰もが平等に安価な携帯電話端末を利用できるようにするという趣旨で端末流通法が施行された。

 一方、端末流通法によりキャリア3社の営業利益は伸び続けた。販売手数料やマーケティング手数料が3社とも減少し、携帯電話端末の価格も上昇したからだ。例えばシェア1位のSKテレコムの販売手数料は2014年の3兆3595億ウォンから2023年は2兆8706億ウォンに減少した。端末流通法により競争がなくなったことから、サービス開発のための研究開発費用も減少してしまったと指摘する意見もある。「端末流通法は実質、割引禁止法となってしまった。携帯電話端末を安く購入できる機会を国が奪った」と批判する声も大きくなった。

 こうした声を受けてか、2024年1月22日に大統領室はまず、同年2月中に端末流通法施行令の改定に着手すると発表した。同法の廃止には国会での議論が必要で時間がかかるためだ。

 同年2月21日には放送通信委員会が端末流通法施行令改定に関する会議を開催し、施行令にある奨励金を差別的に支給してはならないという条項に新たな例外基準を設けることで、キャリア3社と代理店が期待収益に応じて自律的に奨励金を決められるようにするとした。端末流通法で定めている奨励⾦の代わりに、通信料⾦を24カ⽉の間、25%割り引く選択ができるという条件は、将来、端末流通法が廃⽌された後にも割引が維持されるよう電気通信事業法を改定するという。こうすることで、キャリア3社が奨励金でユーザーを差別するような行為ができないようにする。

 現在は端末流通法により、機種変更でも携帯電話番号ポータビリティー(MNP)でも奨励金は同じとなる。だが、「期待収益に応じて」という例外基準ができたことで、過去にもあったように、MNPの奨励金を高く設定して加入者を奪い合う可能性が出てきた。MNPの利用件数は奨励金競争が盛んだった2013年までは年間1000万件以上あったが、2014年に約800万件、2018年は約500万件、2022年には約400万件に減少した。このようにMNPの利用件数が減り、市場シェアは固定され、キャリア3社が競争する理由がなくなり端末価格が高くなって国民が不便な思いをしている、というのが大統領室、科学技術情報通信部、放送通信委員会の見解である。

 こうした政府の意向を受けたかのように、同年1月26日に発売された韓国Samsung Electronics(サムスン電子)のスマートフォン「Galaxy S24」は発売からわずか10日後に奨励金を2倍に増やした。通常、奨励金を値上げするのは、発売から3カ月以上が経過し在庫を減らしたい時期になったら、である。発売したばかりの新機種の奨励金がすぐに2倍になるのは初めてである。

 

 章恩=(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2024. 2.

 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00103/

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