韓国半導体業界のCHIPS法対策、期待の首脳会談も「具体的な成果なし」と厳しい評価

2023年4月に米韓首脳会談、5月には日韓首脳会談が行われ、韓国の大統領室は米国や日本と経済・安保・先端産業・人的交流などの協力を強化するとしたことが会談の主な成果であったと発表した。両首脳会談ともに韓国経済の重要な位置を占める「半導体」が主なキーワードとして登場した。

 2023年5月7日、ソウルの韓国大統領府で岸田文雄首相と尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との日韓首脳会談の後に発表された共同記者会見文書では、「韓国の半導体メーカーと日本の優秀な素材・部品・装備企業が共に堅固な半導体供給網(サプライチェーン)を構築できるよう協力を強化する」「宇宙、量子、AI(人工知能)、デジタルバイオ、未来素材など先端科学技術分野の共同研究とR&D(研究開発)協力推進に対する議論がなされた」といった、日韓協力の重要性を強調した内容が示された。会談前には両国が輸出管理で優遇する「グループA(旧ホワイト国)」再指定も発表された。2019年にあった、日本の韓国向け半導体素材3製品輸出規制の強化後、韓国は日本からの輸入に依存していた材料を積極的に国産化し、取引先を増やして乗り越えた。韓国メディアはホワイトリスト復帰が韓国企業に与える影響はそれほど大きくないとしながらも、日本から材料を輸入する際の手続きが簡素化し取引しやすくなったことから今後の取引に変化がありそうだと評価した。

 翌5月8日にソウル市内で行われた岸田首相と6つの韓国経済団体との懇談会でも、半導体をはじめ米国を中心に進んでいるグローバル供給網の再編に関する日韓協力の必要性が題材となった。懇談会に参加した大韓商工会議所会長兼SKグループ会長の崔泰源(チェ・テウォン)氏は岸田首相とグローバル供給網全般に関する話をしたとして、「韓国と日本は重要な経済協力パートナー」「大韓商工会議所は半導体、バッテリー、モビリティー、エネルギーなどの分野で韓国と日本の企業間協力を進める」と説明した。

 同日、韓国の企画財政部(「部」は日本の「省」に当たる)を中心に、4月に行われた米韓首脳会談の成果を基に「米国と協力し最高の半導体同盟になる土台づくり」のための具体策を議論する会議が開催された。この場で秋慶鎬(チュ・ギョンホ)経済副首相兼企画財政相は、「米国と先端技術同盟・文化同盟の基盤を構築した」としながら、次世代半導体、先端パッケージング、先端素材・部品・装備といった三大有望分野を中心に米国と協力し、米商務省の「CHIPS and Science Act(CHIPS・科学法)」や、「Inflation Reduction Act(IRA、インフレ抑制法)」が韓国企業の負担にならないよう米国と相互利益のため緊密に協議を続けると述べた。

 実は韓国では米韓首脳会談前に最も期待されたのが、CHIPS・科学法やインフレ抑制法によって韓国企業の中国内半導体生産設備投資を制限されたり、EV補助金の対象外となって米国内のEV販売に支障が出たりといったことを首脳会談で問題提起し、ある程度解消することだった。

 CHIPS・科学法により米商務省は米国で先端半導体を製造する企業を対象に390億ドル規模の投資補助金を支給する。企業は総投資の35%まで補助金を申請できる。補助金を受け取る代わりに米国の安保を脅かす特定国家(中国)にある半導体製造設備の生産能力は今後10年間で5%以内しか拡大できない。対中国半導体装備輸出規制により韓国Samsung Electronics(サムスン電子)と韓国SK Hynix(SKハイニックス)の中国における半導体工場の先端工程への転換が難しくなる可能性や、韓国メーカーの半導体製造に関わる情報を米国側に提出しないといけないため企業秘密が漏れてしまうという懸念もある。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. .5

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00085/

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