韓国モバイル放送の危機
商用化“世界初”の裏側は
韓国が2005年5月1日、世界初で商用化したことを自慢にしていた衛星DMB(Digital Multimedia Broadcasting=衛星モバイル放送)の赤字が深刻な状況になっている。衛星DMBのようなニューメディアが登場すれば、約3000億円の経済効果があると展望されていたのに、逆に280億円近い累積赤字を記録している。衛星DMBの運営者であるTUMedia社の負債比率は2045%、親会社である最大キャリアのSKテレコムから見放されたらもう終わりという段階に差し掛かっている。
衛星DMBだけでなくワンセグ、地上波DMBも事情は同じだ。800億円と予測された経済効果は消え、100億円の赤字だけが残っている。無料放送なので利用者を増やして広告収入を得ないとやっていけないが、対応端末が1500万台売れても韓国独自の広告事情からDMB事業者には全くお金が入ってこない。地上波放送局は通常の放送をそのまま地上波DMBに流せばいいので負担はないが、放送局でない三つのコンソーシアムが問題だ。韓国は中間広告(番組の途中に入るCM)が禁止されている。広告は番組の最初と最後、60分ごとに1回と法律で決まっている。DMBに対してはそれを緩和すると言いながらも、規制が続いてきた。
ケーブルテレビにコンテンツを納品していたプロダクションやインターネット事業者らが集まったコンソーシアムはコンテンツの制作にも相当な資金を投入している。広告で売り上げを伸ばさないと収益は上がらないのにそれを流せる時間に限りがあり、投資ばかりしなくてはならないとなれば経営が危なくなるのは当然だ。なんとか赤字を逃れるため、データ放送や付加サービスとして放送とショッピングを連動させたサービスに力を入れている。ドラマの主人公が着ている服をその場ですぐ買えるショッピングサービスのために放送局と芸能プロダクション、キャリアが提携し始めた。
韓国では携帯電話から衛星DMBを受信できるし、地下鉄に乗りながら衛星・地上波モバイル放送を視聴できるというのが自慢だったのに、09年5月開通の地下鉄9号線以降はそれが見られなくなった。ギャップフィラー(電波の届きにくい場所の受信特性を改善する装置)を設置するお金がもうないからだ。
(趙 章恩●取材/文)