岐路に立つモバイル放送
収益よりもプライドか?
前号で報じたように、韓国で衛星DMB(Digital Multimedia Broadcasting=衛星モバイル放送)を運営するTUMedia社は負債比率2045%という危機的状況に陥っている。
ここまで赤字が続いているのに、親会社のSKテレコムはTUMedia社に約50億円を投資することを決定した。「韓国が世界初で商用化しておきながら退場するのは不名誉だ。同じ衛星を使っている日本が先にやめれば韓国もやめる」という話すらあった。結局、日本の東芝は赤字経営に耐え切れず、衛星モバイル放送を中断したという経緯がある。
衛星モバイル放送は有料放送である。月1000円ほどだった料金をSKテレコムの加入者に限って半額にして、利用者を70万人から130万人にまで増やした。しかし、携帯電話メーカーはもう見限っているようだ。衛星モバイル放送を視聴できる携帯端末はここ1年、新しい機種が発売されていない。
この放送の目玉は既存のテレビ局では放送していないスポーツ中継である。TUMedia社は、テレビでは観ることができない番組を提供していると宣伝するが、海外でコンテンツを買ってこないといけないのでお金がかかる。
放送と通信の融合を象徴する韓国初のニューメディア「衛星DMB」は、サービス開始直後から経営危機が囁かれながらもここまできた。今でも成せば成るとまだ希望を捨てられずにいる。トライ&エラーが韓国の特徴であり持ち味でもあるが、デジタル放送は一歩間違えれば致命的なエラーになりかねない岐路に立たされている。
2008年11月からは放送と通信の本格的な融合として、最大手通信会社のKTが地上波放送IP再送信を含むIPTVを商用化した。IPTVもまた金の卵を産むだろうとバラ色の展望が語られている。IPTVはテレビとセットトップボックス、ネットワーク回線を利用し、衛星デジタル放送と同じく月利用料を徴収する有料放送である。有料なのにそれに相応するコンテンツが見当たらないという理由で加入者が思うように伸びなかった衛星デジタル放送を教訓にしてコンテンツ競争が始まるのかと思ったら、IPTVは大手通信事業者を中心に真っ先に料金競争から始まった。これまた典型的なトライ&エラーの事例になってしまうのではないかと、不安を覚える。
(趙 章恩●取材/文)
[BCN This Week 2008年12月15日 vol.1264 掲載]