韓国は他の国に比べ異様なほどネット利用率や活用度、依存度が高い。生活や企業、金融のIT化だけでなく、去年12月にはインターネットが大統領を生んだとして全世界から注目されたこともある。今年の1月にはたった1日ネットが使えなかっただけで「インターネット大乱」と名づけ大騒ぎしたことがある。
ネットは韓国を変えた。TVは昼間放送しない、雑誌や新聞の数は日本の10分の1にも満たない、今まで限られていた情報源はネットを中心に爆発的に増加し、ネットは情報を手に入れるためではなく自ら発信するための道具として定着している。「00区にあるAレストランで不愉快な思いをした」、「デパートAはセールと言いながら値段が他より安くない」、「芸能人のAとBのデートを目撃した」、「政治家Aが無断駐車し注意したら暴れた」等々、今までならせいぜい家族や知人に話す程度の話題や噂が、ネットに載って一気に伝わる。韓国に「足のない言葉が千里を行く」ということわざがあるが、まさにその通り。1日1億PVを超えるDAUMの掲示板にこのようなことを書き込んだ瞬間、それを読んだユーザーたちがこれをコピーし 様々な掲示板に書き移し一緒に興奮してくれる。さらに次々と自分の経験話も付け加え、インスタントメッセンジャーまで駆使してしまうので、ネットでの噂が原因で潰れた店は数え切れない。企業や官庁、学校、芸能人、政治家等、みんな何よりもネットが怖い。
4月、忠清南道のある小学校の58歳の校長先生が自殺した。「お茶くみ」に不満を持った28歳の女教師が自分は同じ教師なのに不当な扱いをされていると、教育部のウェプサイトやコミュニティーサイトに実名で訴えたところ、真相を知ろうともせず、何万人ものネティズンが毎日のように該当学校サイトの掲示板に校長先生を非難する書き込みを残し、公式謝罪を要求した。また教師の労働組合「全教組」も加勢、この女教師が正式教師ではなく期間制(教師資格をある者を休暇中の教師の代わりに特定期間だけ雇う制度)だったため校長や校監先生(教頭)が気軽に雑務を押し付けられたとし、期間制や非正規職の待遇を改善するべきだと主張し始めた。自分を非難するネットと全教組に加入している学校の先生たち、ネットに負けてはならぬと圧力をかける校長団体、事態を見守る地域住民に挟まれ校長先生は自殺を選んだ。
彼の死後、お茶くみや雑務は校長ではなく校監が校長にいいところを見せようと他の教師に強要していたこと、女教師の方も体育の時間に自分はミニスカートにハイヒールのまま児童を適当に遊ばせたり、授業より自習が多かったことが問題になった。地域住民はお父さんのような年齢の人にお茶を入れてあげることが不当な扱いなのか、そのような「全教組」教師たちに子供を預けられないと反発し登校拒否、教師が児童の家庭を回りながら授業を続けている。ネットでも今までとは逆に、自分たちの利益のためなら何でもやる「全教組」に反発する動きが出ている。匿名でその学校にコーヒー自動販売機を送るネティズンや大規模集会を開く計画を発表した校長団体、自殺は自分たちのせいではないと主張する「全教組」に、どちらも教育には全く興味がないのではないかと心配するPTAまでが対立し、韓国の教育社会は今大きく揺れている。
まだまだネットがきっかけとなる事件は続く。5月、27歳の女性が家庭内暴力で悩み警察に相談したところ、逆に「お父さんを警察に訴えようとするなんて、それが娘のやることか。酔った父にたたかれたくらいで家庭内暴力というなら、この世の両親はみんな家庭内暴力」と説教された。このことに興奮した女性はすぐ警察のウェプサイトにある掲示板に書き込んだ。その直後から掲示板は麻痺状態、担当刑事を非難したり、署長の公式謝罪を要求したり、またその女性が悪いという反論が1カ月以上も続いた結果、警察は担当刑事を「戒告」し人権教育をさせることで事件を一段落させた。
日本でも活躍したことのある女性3人グループ歌手「SES」のメンバー「ユジン」は、ボーイフレンドのひざの上に大股開きで座っているプライベート写真がネットで公開され、芸能活動を中止することになった。「ユジン」の彼氏であるタレントのメールアドレスがハッキングされ、そこに届いた写真やメールの内容があちこちのネット掲示板に掲載されてしまったのだ。「ユジン」は被害者なのだが、清純なイメージで人気がが高かっただけに打撃は大きく、芸能活動中止という極限の事態に陥ってしまった。これ以外にも韓国の芸能界では今までプライベートビデオがネットに出回ったり、してもない交通事故の加害者として噂されたり、整形前の写真が公開されたり、発売前の写真集やアルバムのファイルが丸ごと出回ったり、目撃談などが後を絶たない。このような事件は警察庁「サイバー捜査隊」が担当しているが、IP追跡をし犯人を割り出し処罰してもイタチゴッコなので、自分で自分のプライバシーを守るしかないのが実態だ。
<関連サイト>
◇DAUMカフェ
http://cafe.daum.net/
噂の発祥地、一日1億PV を超えるポータルサイト「DAUM」のコミュニティーサイト
by- 趙 章恩