昨年の秋、親がPCバンでオンラインゲームに夢中になり、生後3カ月の赤ん坊を放置して飢え死にさせたという衝撃的な事件が韓国で発生した。日本でも親がパチンコに夢中になって子供が犠牲になる事件が度々発生しているように、韓国ではオンラインゲーム中毒による殺人、恐喝、窃盗などの事件がなくならない。またゲーム中毒による過労死も毎年のように発生している。
人口約5000万人の韓国で、オンラインゲームユーザーは2000万人以上と推定されている。中毒問題もブロードバンドが商用化された1998年当時から繰り返し浮上し、中毒予防対策も毎年のように繰り返されている。
度重なる事件から、韓国政府は青少年を対象にしていたインターネット中毒予防プログラムを幼児から成人にまで拡大することを決めた。名づけて「インターネット中毒予防及び解消総合対策I-ACTION 2012」。行政安全部、教育科学技術部、文化体育観光部、保健福祉部、放送通信委員会、法務部、国防部に至るまで、7つの政府省庁が共同対処するほど力を入れている。インターネット中毒予防のためのカウンセラー養成や相談施設拡大などのために、予算も10倍以上増やし、2012年まで人口のおよそ20%に当たる1000万人に中毒予防カウンセリングを行うとしている。
韓国政府の調査によると、全国民の約80%がネットを利用してその内8.8%がインターネット中毒に至っている。インターネット中毒は、ネットが使えないといらいらしたり不安になる禁断症状がひどいことで、1日5時間以上オンラインゲームをする人もこれに当たる。韓国ではインターネット中毒やオンラインゲーム中毒は麻薬中毒と同じほど深刻な問題であるととらえられている。よくテレビの特番にもなっていて、「オンラインゲーム中毒は心理的な問題というより脳疾患」と断定する医者もいた。そのため、2012年までインターネット中毒を8.8%から5%以下に落とすのが国家的課題である。
「I-ACTION 2012」の主な内容は、今までのようにネット中毒、オンラインゲーム中毒を防止するための相談、治療、官民協力など。面白いのは、オンラインゲームを長時間やればやるほど楽しさが減るシステムを導入するという点である。
これは「疲労度システム」と呼ばれるもので、既に一部オンラインゲームに導入されているという。一度に長時間連続してゲームをすると逆にキャラクターの成長速度が遅くなったり、獲得できるアイテムが少なくなったり、1日一定時間以上ゲームをできないようにするためのツールである。
オンラインゲーム中毒の理由は、ほとんどが長時間やればやるほどキャラクターが育ち、ゲームマネーを獲得していろんなアイテムを使えるようになるのでゲームがさらに面白くなるところにあった。それを一度に長くゲームを利用するとどんどんつまらなくなるようなシステムを開発するだなんて、ゲーム業界は大丈夫なのだろうか。
ゲーム業界の賛同が必要な部分とは言え、疲労度システムが導入されれば、長時間ゲームをやることでゲームマネーやアイテムを獲得し、それをほかのユーザーへ転売することで換金する「アイテム取引」を減らせるのではないかとも韓国政府は見ている。ゲーム会社の約款に「アイテム取引」は違法とされているが、これを合法とした判例があるため議論になっている。
韓国のオンラインゲームは「Eスポーツ」と呼ばれ中国・台湾・日本はもちろん、東南アジアや欧米にも輸出される大事な産業である。韓国オンラインゲーム産業の輸出規模は2009年に約15億ドルで、毎年50%ほど増加している。オンラインゲームは韓国のデジタルコンテンツ産業を支え、自動車産業よりも輸出額が大きいと言われているため、一方ではオンラインゲームを育成させ、一方では中毒問題でゲーム内容を厳しく事前審議したり規制したりという矛盾が続いている。
疲労度システムの導入に関しても、ゲーム業界ではオンラインゲーム中毒の予防という観点では同意するものの、一括適用ということになっては困るという雰囲気だ。
また、一定時間になるとオンラインゲームやインターネット接続そのものを強制的にシャットアウトするシステムも導入が検討されている。このシャットアウト制度は2005年から議論が続いていて、インターネットは社会の基本インフラであり誰でもアクセスできるようにするべきという利用者の権利問題もあり制度化はされていない。一部オンラインゲーム会社は自主規制として、IDごとに1日10時間以上プレイできないようにしている。
日本では携帯電話を一時も手放せず、絶えずメールを打ちまくり、モバイルインターネットにつながっていないと不安になるという若い人が結構いるようだが、中毒だといって政府がドラスチックな対策を発表するなんてことはないようにみえる。インターネット中毒やオンラインゲーム中毒、韓国政府の国民過保護が事を大きくしているのかもしれない。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2010年3月18日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100317/1023664/