2010年2月、韓国では著作権法をめぐるある訴訟が注目された。
歌謡曲を歌いながら5歳の子供が踊る1分未満の動画をブログに掲載したところ、「著作権法に違反している」として著作権団体がブログ運営会社へこの動画の削除を要請。運営側はこれを受け入れ動画を削除した。
BGMに歌謡曲を流したのでもなく、子供の遊戯に過ぎない動画まで著作権法違反として削除要請したこと自体驚きだが、「表現の自由を守るため、無差別的な著作権取り締まりをなくすため」として韓国音源著作権協会とブログ運営会社を相手に、この動画を載せた子供の保護者が裁判を起こしたというからすごい。
判決は一部勝訴。これは個人的著作物であり、音楽の商業的価値を利用して営利目的を達成しているわけではないとして、音源著作権協会が過剰な著作権を行使したと判断、損害賠償として20万ウォンを原告に支払い、削除した動画を再掲示するという命令が出た。動画を無断削除したとして訴えられたブログ運営会社側は、30日以内に再掲示要請をするよう原告に告知していたが、30日を過ぎて原告が再掲示を要求したということから無罪となった。
しかし、ネットで問題になっているのは「非営利目的」の範囲である。判決の中で著作権法違反ではないとした根拠が、歌謡曲が「非商業的に使用された」、「子供の歌なので原曲とはかなり違うところがある」という点だった。今回の訴訟では著作権侵害ではないという判決が下されたが、歌が上手な人が歌謡曲を歌う動画をブログに載せた場合は著作権法に触れる可能性もあるというのだろうか。「歌謡曲をそのままそっくり歌うカラオケ動画」をブログに載せるのは著作権を侵害しているのか、そうでないのか。
混乱の背景として、韓国では2009年7月に著作権法が改定されたことにある。
違法動画と知りながらもアップロードできるよう場所を提供し、ダウンロードする人から利用料をもらっていたストレージサイト、そのような動画を大量にアップロードしてストレージサイトから収益を分けてもらう、「ヘビーアップローダー」と呼ばれる人を取り締まるのが目的で、3回摘発されると該当サイト閉鎖、アップローダーの場合は該当サイトのID利用停止という「三振アウト制度」が導入された。ブログやSNSといった個人の非営利目的の利用は取り締まりの対象にならないとしていた。
ところが、実際はそうでなかった。2009年10月時点でブログやSNSなど2010件の掲示物が摘発されたのである。非営利目的の利用は著作権侵害にならないとしながら、個人ブログのドラマキャプチャー画面や音楽の一部を編集した動画などが対象になった。
違法になる基準がはっきりしないため不安になったユーザーらは、ブログを閉鎖したり、SNSの更新をやめたり、大混乱が続いた。著作権者が法律事務所を代理人として無差別に訴訟を起こし、著作権のことをよく理解していない小中学生がターゲットになった。著作権侵害で摘発されたのが青少年の場合、最初の1回は起訴せず著作権について教育する「起訴猶予」を実施する処置を政府は急いで打ち出した。
著作権を担当する省庁の文化体育観光部は、2010年内に著作権法を再度改定し、非営利目的の著作物利用に関する「公正利用制度」の項目を追加するとしている。非営利目的の、カラオケで歌う動画やドラマのキャプチャー画面を利用したパロディ、2次創作物に関しては著作権の負担なく利用できるようにはっきりさせる、ということである。
さらに、「不法複製物」の明確な定義をし、無差別訴訟をなくすために韓国著作権委員会が著作権訴訟の紛争を仲裁できるようにもする。インターネット=「パソコン」から「スマートフォン」へ移行しているだけに、アプリケーション、電子書籍などに対応する著作権保護に関するガイドラインも2010年内に制定するという。
著作権は当然、守るべきである。しかしインターネット上で行われる個人の引用、パロディ、著作物を利用した2次創作物の著作権、表現の自由も重要とみなされる。プロが作るコンテンツよりユーザー投稿動画の方が面白いケースも増えてきた。一部有名アーティストの間では、新曲をネットで発表して自由にブログにコピーできるようにするケースも増えてきた。ネットで次々と現れるサービスに、著作権をどこまで行使するか、著作権保持者の悩みであり続けるだろう。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2010年3月25日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100325/1023887/