新しい製品やサービスが大好きで誰よりも早く使いたがる、いわゆる「アーリーアダプター」と呼ばれる人が多い韓国。米で売り切れ続出というiPadへの関心も非常に高い。iPhoneによるモバイル革命が起きたということもあってか、進化した電子書籍リーダーというよりは、何でも使える、ライフスタイルに大きな影響を与える携帯型情報機器としてiPadを期待しているようにみえる。
Appleによると韓国での発売予定はまだ決まっていないということだが、TwitterやブログにはiPad体験記が書き込まれ、海外購入代行サイトを利用した注文が殺到しているという。iPhoneも「来月には出る」として2年近く発売が遅れたため、海外で購入したiPhoneをキャリアの代理店に持ち込み契約して(携帯電話として使うためには別途端末認証などの手続きが必要だった)使う人もいたほどだった。いつになるか分からない正式販売まで待てないのである。
海外購入代行サイトは文字通り、海外でしか手に入らない商品の購入をネットで依頼し、韓国へ郵送してもらう代行サービスのこと。海外発送に対応していないオークションサイトやアウトレットの商品を購入するためによく使われている。iPad(16GB)が米で499ドルのところ、郵送料や手数料込みで約84万ウォン(7万円前後)はする。韓国で未発売のiPadが既に1000台以上は輸入されたという推定値があるほどだ。大手海外購入代行サイトはどこもiPad特設コーナーを設けている。共同購入で人を集め大量注文することで手数料を安く抑えようと、Twitterやブログを通じて購入者を集める人も出てきた。
中には「iPad買った!」という書き込みに対して、どんな機能があるのか、一体どんなものなのか、あまりにも質問が相次いだため、自分のiPadを触って体験できるよう体験会を開催した人もいるから面白い。発売予定はまだないというのに、iPadを展示する大型書店もある。ここでもiPadを体験するため長蛇の列!
韓国ではやはりiPadの大きな画面が魅力とされている。瞬時に起動し、写真もきれいに映る解像度に期待は高い。電子ブックだけでなくネット検索、ゲーム、動画再生、デジタル額縁、GPSナビゲーションとしても利用できるので、遊びにも仕事にも使える。有料アプリケーションを購入すれば、韓国語入力もできる。
iPadを取り寄せた人の中には、アプリケーション開発者や出版業界の人が多いようだ。個人がiPhone向けアプリケーションを開発して一晩で数百万円稼いだという実話が何度も報道されてから、アプリケーション開発は“宝の山”として注目を浴びているのだ。
iPadをきっかけに離陸する韓国電子書籍ビジネス
韓国でも2009年から電子ブックリーダーが次々に発売され、人気作家の連載が電子書籍限定で配信されたり、新聞社が有料配信を始めたり、「電子書籍」がようやくビジネスモデルとして動き始めたことも影響している。韓国の電子書籍サービスは1999年に登場したものの、10年も眠ったままの市場だったが、電子書籍にぴったりの使いやすい機器が登場したことでやっと活気が出始めた。出版業界もデジタルコンテンツ業界も、iPadのように誰でも楽に使える機器が出たからには、パソコン向けサービスとはまた違うコンテンツサービスができると胸を躍らせている。銀行やポータルサイトもiPadからサービスを利用できるよう準備しているという。
電子書籍リーダーを発売したばかりのハードウエア業界にとってiPadは嫌な存在ではある。しかし、iPadの影響でパソコンや電子書籍、デジタルコンテンツ産業が生まれ変わるきっかけになることは間違いないだろう。iPhoneをきっかけに韓国モバイル産業が大きく変わったように。世界市場で活躍する韓国メーカーらは当然iPadを超える機器作りを目指すだろうから、これをきっかけに韓国産タブレットPCや電子書籍リーダーの技術発展も望める。
韓国では一家に1台、テレビはなくてもデスクトップパソコンはあるほどで、「大画面+ネット」依存が強い。テレビの番組もテレビ局のサイトからリアルタイムで高画質映像を観られ(Onairサービスといって、CMも含めテレビに流れる画面がそのまま無料でネットから視聴できる)、音楽や動画、ゲーム、雑誌などパソコンから利用できる無料コンテンツも豊富にそろっている。
iPhoneのようなスマートフォンの利用が急増しているのも、携帯電話より画面が大きいのでストレスがない、無線LANを使えるから料金を気にすることなくネットが使え、よりたくさんのコンテンツを利用できるという点が挙げられる。「大画面+ネット」への要求の高さからすると、無線LANに対応した9.7インチのiPadは、韓国人にとって欲しくてたまらないものなのだ。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2010年4月14日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100414/1024306/