日本でもTwitterやUstreamを使って政策や仕事内容を国民に知ってもらうとする政府広報活動が行われている一方、韓国でも政府省庁や地方自治体のブログやTwitterが話題になっている。
政府機関がソーシャルメディアに登場するようになったのは既に5~6年ほど前。ブログが登場し、Cyworldというソーシャルネットワークが大ブームだった2004年、政府機関がCyworldにHompy(ミニホームページ)やアバターを作って親近感を持ってもらおうとしたのが始まりだったように覚えている。
スマートフォンの普及で、24時間絶えずTwitterのようなつぶやきサイトやマイクロブログ(モバイル端末から利用するブログ)に書き込みする若い世代が増えたせいか、このごろは韓国の政府機関も公式サイトのほかにブログも当然運営し、Twitterとの連動も重視するようになった。TwitterやソーシャルネットワークサイトのIDをブログのIDとしても使えるようにしているので、ユーザーが何かTwitterに書き込むと、自動的にブログのコメントとして登録される。
政府機関の公式サイトはまず訪問者数が少ない。何か調べようというはっきりとした目的がない限り、政府のサイトなんて滅多にアクセスしないだろう。ところがブログやTwitterの場合、自然と訪問者数が増える。韓国ではポータルサイトが運営するブログを利用する人が圧倒的に多いので、ポータルサイトの中の検索結果やランダムリンクなどで政府ブログの存在を知る人も多い。
公式サイトの場合は誰が訪問したのかIPアドレスから分析するしかないが、ブログだとどんな人が訪問したのか足跡が残り、また気軽にコメントを残してくれる。ブログやTwitterでは実名確認をしなくても、本人の顔写真や年齢や職業や日常を公開しているので、どういう人がどんなコメントを残してくれたのか分かる。
政府ブログの運営は、最初はαブロガーとして知名度の高い人にコラムを書かせることでクリック数を伸ばし、かわいい連載マンガと懸賞イベントで定期訪問者数も伸ばす、といったところだが、ブログ記者やサポーターという肩書きで大学生を採用して、政府政策を宣伝するための分かりやすく面白い記事も書かせている。こうした政府の努力はもちろん、若い世代にアピールするため。
中央省庁の中でも堅そうなイメージのある企画財政部、統計庁、保健福祉部、放送通信委員会、国防部、兵務庁、国軍、国会、大統領官邸などなど、ブログとTwitterを持っていない省庁はないほど。しかも面白いのは、国会Twitter、企画財政部ブログという名前ではなく、企画財政部は「ブルーマーブル」(億万長者になるのを競うボードゲームの名前)、保健福祉部は「タスアリ」(暖かいという意味)、国会は「丸い屋根」といった具合でかわいい名前を付けているのだ。背景画面にもパステルカラーのイラストを使ったり、人気マンガのキャラクターを登場させたり、気を使っている。
最初政府ブログにアクセスしたときには、「一体ここは誰のブログだろう?」とさっぱり理解できないこともあったが、政府ブログの連載マンガが意外と面白くてついつい訪問してしまう。中でも国防部のブログ「同苦同楽」は、2009年の「大韓民国ブログアワード」で公共部門1位に選ばれたほど人気を集めている。
韓国国防部のブログ「同苦同楽」
国防部、陸軍、兵務庁などがブログを運営する目的の1つは、徴兵制を怖がる最近の若者に、約2年の軍生活を通じて、人間として大きく成長できると思わせる(!)ためなのかもしれない。軍に入ってみたら資格もたくさん取れていいことだらけ、軍で芽生えた友情は一生もの、といった内容のWebマンガがずらりと並んでいる。このマンガがあまりにも面白く、しかもかわいいので、「軍に入っていろいろ経験してこそ大人よね~」なんてついつい「お気に入り」に追加してしまった。
Twitterでは軍生活のエピソードを描いたこのマンガにリンクして、「私が軍にいたころは~」と始まる徴兵自慢話のネタにもなっている。兵務庁のブログには、徴兵で軍に入隊した人気芸能人の軍生活の写真も掲載されているので、ファンにとってはありがたいブログなのだ。
韓国では就職が厳しく失業率も高いだけに、労働部のブログも人気が高い。大学生向けに労働基準や勤労者の権利などを分かりやすく解説するため、人気ドラマのストーリーを事例にして解説したりもする。アルバイトをするときに確認すべきことだとか、給料をもらえなかったときにはどこに相談すればいいのかといった基本的なことから、まじめな国家政策に至るまで、文字よりもマンガと写真をいっぱい掲載している。
しかもこのブログの運営者は人気コミックマンガの主人公という設定。中小企業に勤める営業マンたちの苦労と人情と友情をテーマにしたマンガの世界そのままをブログに生かしている。
就職活動中のブロガーの投稿も多く、海外でのワーキングホリデー体験談、アルバイト体験談などが盛りだくさん。クイズ形式の懸賞イベントもよく開催されている。2010年9月には米スタンフォード大学で行われたという5ドルプロジェクトの韓国版コンテストを行っていた(これは、5ドルを投資して、4週間後、社会的価値のあるビジネスとして誰が最も高い収益を上げられるのかを競うコンテスト。実際にスタンフォード大学で優勝したチームは5ドルで650ドルを稼いだという。そのビジネスモデルとは、学生の前でプレゼンする3分間をある企業に売り、その企業の求人広告をプレゼンの代わりにすることで広告料として650ドル稼いだ、というものだった。頭いい!)。
このようにTwitterと連動させてみたり、イベントを開いてみたり、若い人が喜んで使ってくれる機能は何だろうと四苦八苦した甲斐があったのか、政府ブログは平均1日4000~5000人ほどが訪問していて、Twitterのフォロー数もぐんぐん伸びている。韓国の人口は日本の約3分の1なので、1日これだけの人が訪問するというのはけっこうな数字なのである。
訪問者数が伸びて国家政策の宣伝につながり何かいいことがあったのかというと、まだそれは分からない。でも政府のやることに興味を持ち、一言二言つぶやき始めた人が増えているのは確かだ。
趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2010年9月22日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100922/1027580/