サムスンの場合、世界市場で戦っているだけに、政府の支援に頼らずどんどん先にビジネスを進めている。スマートTVも例外ではない。
同社は世界109カ国向け(2010年9月14日時点)にSamsung Appsというアプリケーションストアを運営している。テレビ販売では世界市場で5年連続1位のサムスンであるが、これからはソフトウエア、コンテンツの時代だとして最も積極的にアプリケーションやOSに投資している。スマートフォンではグーグルのAndroidを採用。独自のモバイルOS「BADA」を搭載した「WAVE」というスマートフォンもあるし、テレビでは自社のOSで自社のアプリを流通させたいとしている。
サムスンのスマートTV向けアプリケーションはこうなる
サムスンは2007年から「インターネットTV」といって、リモコンとキーボードを使って検索できたり、ポータルサイトを利用できたりするテレビを販売していたが、「インターネットTV」の場合は決まったサイトにしかアクセスできないようになっていたせいか、それほど話題になることはなかった。
同社は地道に取り組みを続けている。2010年3月、スマートTVで使えるアプリケーションコンテストを実施した。サムスンの説明によるとこれは世界初のコンテストなのだとか。公募の結果、多言語童話、カラオケ、テレビの画面から新聞を新聞の形のまま読めるTペーパー、学習関連コンテンツなど、家族向けアプリが選ばれた。160件の応募があり、一般ユーザー2500人が投票に参加して人気順位を決めた。これからはコンバージョンスアプリケーションとして、一度購入したら端末を選ばず使えるアプリケーションを流通させるとしている。この9月からはアメリカでスマートTV向けアプリケーションコンテストを開催している。
サムスンのブースに展示されたスマートTV(IFA2010の会場で)
先日ドイツで開催された家電展示会IFAで、サムスンは「2011年に発売するほとんどのテレビに3DとスマートTV機能を搭載する」とした。2010年発売するTVの場合は、半分ほどにスマートTV機能が搭載されるという。どんなテレビだろうと、「テレビ=サムスン」にすると自信満々である。ブロガーからはリモコンやUIがちょっと…と突っ込まれたりしたが、これぐらい強気でないと世界で戦えないだろう。
スマートフォンに出遅れた責任を取らされたのか、LG電子はCEOが創業者の孫に入れ替わった。LGもスマートTVには積極的で、2010年末に今までのインターネットTVとは全く違う新製品を披露するとしている。韓国ケーブル放送チャンネル大手事業者であり、映画制作もしているCJグループと提携し、LGのスマートTV専用サービスとして韓国政府が考えているスマートTV戦略は「韓流」。アジアで人気の高い「韓流ドラマ」を目玉にすれば韓国のスマートTVは売れるのではないかという考えだ。韓流コンテンツの多言語翻訳支援、中小企業のスマートTV向けアプリケーション開発支援といった政策も発表された。
韓国では難視聴地域が多いことから、全世帯の約84%がケーブルテレビまたはIPTVに加入している。地上波放送を見るためには有料放送に加入しなくてはならなかったため、加入するのがもったいないと考える家庭は少ない。スマートTVの本体そのものが高くなければ、地デジ対策を兼ねて、3Dでアプリケーションをたくさん利用できるスマートTVに乗り換える人も少なくないだろう。
スマートTVは家電メーカーがあって、地上波放送局やIPTV・ケーブルチャンネル事業者があって、という産業構造を変えることになる。家電メーカーがコンテンツも提供し、インターネット事業者がテレビも作る。
韓国では既に放送局が自社番組のDVD販売をあきらめ、動画をIPTVやスマートフォン向けに提供するようになった。違法にコピーされず少額でも確実に課金できるからだ。これからはスマートTV向けアプリに変わるだろう。アメリカでもグーグルTVやアップルTVが放送を変え、コンテンツ流通方式を変え、人々の生活を変えると既存の業界プレーヤーに恐れられているようだ。
テレビなんてコンセントを差し込めば観られるもの、と言えるのも後残りわずかかもしれない。日本も家電メーカーやキャリアなど、スマートTVを準備し始めていると聞く。スマートTVになって便利になるのはいいけど、お金を払わないと砂嵐以外何も観られなくなるのではないか、それがちょっと怖い。
趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2010年10月6日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101001/1027749/