【韓国教育IT事情-2】熱血教育ママに学ぶ教育とICT…教育情報化編


韓国では、子供も親もインターネットに慣れていて、eラーニングをはじめICTによる教育にも慣れている。政府も積極的で、ICTを利活用した教育で国民にお金をかけず質の高い教育環境を提供しようと、バッググラウンドとして校務の情報化、教育行政の情報化を完成させた。




スマートフォンが売れたのも大学入試向けeラーニングがあったからこそ。韓国では自治体が無料で提供する入試eラーニングも多数ある



◆3~5歳のネット利用率は63%

 放送通信委員会の「インターネット利用実態調査」では、ネット人口を「6歳以上の人口」から「3歳以上の人口」に変更したほど、韓国のネット利用開始年齢は低くなっている。赤ちゃんの首がすわればマウスを握らせるというほど、どんな分野でも生活とネットは切り離せなくなっている。2010年上半期の、3~5歳のインターネット利用率は63%、3~9歳は85.5%、10代~20代は99.9%、30代は99.3%と10代以上は限りなく100%に近い。今や、ネットは水道や電気と同じレベルのインフラになっている。

◆世界トップレベルの政府・教育の情報化

 電子政府、教育行政の情報化も世界トップレベルであり、学校からの連絡事項は1999年あたりから、すでにネット経由で行われている。学生用、保護者用のIDがそれぞれにあり、先生からの連絡事項、学校生活評価、成績などすべての情報がネット経由で公開されている。子供が成績表を隠す、なんてことはもうできないのだ。

 韓国人のインターネット利用目的は、情報収集が91.6%、ゲームや動画といった余暇活動が89.1%、コミュニケーションが88.4%、ショッピングおよび販売が57.7%、教育・学習が53.4%の順となっており、インターネットと教育・学習の関係は密接で、通信事業者やパソコンメーカーは新製品を販売する際には必ず「子供の教育のために必要」という宣伝文句を付け加える。

 ネットブック(インターネット接続が主な用途の小型ノートパソコン)が売れたのも、スマートフォンが売れたのも、IPTV(テレビから地上波放送・ケーブル放送・インターネット経由で各種動画を利用できるサービス)が売れたのも、モバイルインターネット(Wi-Fi、WiBro:時速120kmで移動しながらでも高速モバイルインターネットが使えるサービス)利用者が急増したのも「教育のため」だった。

◆塾に依存しない大学入試

 韓国政府は進学塾や予備校に依存しない大学入試を目指し、お金がなくても質の高い教育を受けさせることを政策的課題としている。

 その一環として、無料で利用できる教育放送の入試講座から、センター試験の問題を出題すると発表している。韓国の大学入試に欠かせない教育放送のインターネット講座をいつでもどこでも好きな時に受講するため、ネットブックやスマートフォン、IPTVが売れ、モバイルインターネットの利用も伸び始めたのだ。

 当然eラーニングも活発で、大学入試用だけでなく、幼児向け教育アニメや英語教育サイトも人気が高く、連日新しいサービスが登場している。タッチスクリーンのモニターに、百科事典や英語・数学などの基礎が学べる動画・アニメがプリインストールされた子供用教育パソコンも人気が高い。

◆目玉は教育アプリ

 この頃話題のスマートTVも、目玉は教育アプリケーションだった。

 スマートTVはIPTVと似ているが、スマートフォンから利用できるアプリケーションをテレビからも同じく利用できる。動画だけでなくゲーム、スポーツ、音楽、電子書籍、生活情報など何でもありのテレビである。サムスン電子は、スマートフォンに続いてスマートTVでも、子供の教育のためになるアプリケーションを無料でお試しできるようにして需要を伸ばしている。

 ここまでネット利用が盛んになった結果、韓国は、子供にインターネットを使わせることより、ネット中毒にならない方法、正しい使い方を教えるのに苦労している。この頃は中高生より小学生のインターネット中毒が問題になっているほどである。

 学校で「インターネット文化教室」を開催し、ネットで個人情報を書き込んではいけない、顔が見えないからといって悪口を書き込んではならない、著作権とは何か、オンラインゲーム中毒になるとこんな問題がある、といったネチケット(ネット上のエチケット)を教えている。

◆ネット利用のコントロールは大人の責任

 子供の教育費のためにと共働きが増えた結果、放課後一人でいくつもの塾に通う子供が増えている。塾に行かないと友達にも会えないというほど、公園で遊ぶ小学生は少ない。学校と塾を往復するだけの生活で、休み時間にすることといえばオンラインゲーム。そのため、通信キャリアが提供する子供のネット利用をコントロールするためのサービスも数え切れないほどある。

 携帯電話から遠隔操作で曜日ごとにパソコンの利用時間を設定できて、決まった時間が過ぎると電源が自動的に切られ、パソコンを使えなくするサービスも人気が高い。特定のサイトまたは電話で申し込みをするので、子供にパスワードがばれてしまう、なんてことも防げる。

 IPTVも同じで、子供がどんな番組を見て、どんな動画を見たのかを携帯電話からチェックできるようになっている。自分の家のIPTV画面にメッセージを表示させることも可能だ。「そろそろ塾の時間よ」「アニメばかり見ないで英語の動画も見てね」といったお母さんのメッセージが、字幕でテレビに出てきて子供はびっくり!

 フィルタリングは基本で、政府が提供する無料のフィルタリングもあれば、青少年団体が提供するフィルタリング、通信事業者が提供するフィルタリング、色々なフィルタリングがある。

 保護者らはフィルタリングのためのモニタリングにも積極的で、子供の教育によくないと思われるサイトを見つけると政府のフィルタリング窓口に通報し、情報を共有する。

 韓国では30~50代の親世代のネット利用が活発なせいか、子供がどんなサイトを見ているのか、どんな使い方をしているのかサッパリわからない、なんてことはあり得ない。

 さらに儒教の考えがまだ強く残っている国だからか、親と子の絆がとても強い。「子供は親のもの」という意識からか親も熱血で、「子供のため」ならどんなことだろうが専門家になってしまうのだ。


 次回は韓国で2007年から行われているデジタル教科書実証実験を紹介する。そこで浮き彫りになった保護者の考え、子供への影響を紹介し、さらに問題と解決策を中心に日本の教育とICTを考えてみたい。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

リセマム (ReseMom)
2010年11月2日

-Original column
http://resemom.jp/article/2010/11/02/204.html

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *