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「スマート教育推進戦略」を発表、全教員にタブレットPC支給も
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韓国国家情報化戦略委員会と教育科学技術部(韓国の文部省)は6月29日、2014年から小中学校、2015年からは高校でデジタル教科書を導入し、教室と家庭のインターネット環境もADSLより100倍速い4Gネットワークにするといった「スマート教育推進戦略」を発表した。まずは法律を改定して、デジタル教科書に「教科書」として法的地位を与える。紙に印刷されたものが教科書であるという規定をなくす。
元々韓国は2013年には全国の小学校にデジタル教科書を導入する計画であった。そのために、1996年からデジタル教科書開発を進めてきた。2007年からは小中学校でデジタル教科書実証実験が始まり、2011年も全国の小学校100校以上でデジタル教科書を使った授業が行われている。
教育科学技術部は、「2009年度OECD学習到達度調査(PISA:Programme for International Student Assessment。参考記事)によると、デジタル読解力では韓国が1位 。すでにデジタル社会に慣れている学生の未来のために、教育のパラダイムシフトが必要である」として、デジタル教科書の必要性を強調した。
紙の教科書からデジタル教科書に変えることで、「重い教科書を持って登校しなくてもいい」、「デジタル教科書には辞書、参考書、各種データベースがリンクされているので、塾がない過疎地に住んでいる子どもたちにもレベルの高い学習環境を提供できる」、「お金がなくて参考書が買えない子どもでも、デジタル教科書さえあればいくらでも自習できる」、「教科書の中身が随時アップデートされるので最近の事例を取り上げながら勉強できる」、「デジタル教科書を使えば、子どもの学習能力に合わせてテスト問題や課題を調整できる」など、生徒一人ひとりの目線に合わせた教育を提供できるようになる。
サムスンが提供するスマート教育の様子。韓国では2015年までに小中高校すべての学校へデジタル教科書を導入することが決まった
デジタル教科書実証実験を行った学校のアンケート調査を見ると、子どもも保護者も先生も、満足度が非常に高い。特に子どもたちは「授業が楽しくなった」、「紙の教科書よりも理解しやすい」と大喜びだった。
スマート教育のためのデジタル教科書は教科内容、学習参考書、学習辞典、問題集、ノート、マルチメディア資料などのコンテンツが盛り込まれる。モバイルクラウドコンピューティングをベースに、インターネットさえつながれば、パソコン、スマートフォン、タブレットPC、スマートTVなど、どんなデバイスからも自分の教科書を使えるようにする。
スマート教育のために学習評価方式もインターネットベースに変える。学生の成績管理や先生の校務はすでにすべてクラウド化されているが、評価そのものも紙のテストではなくインターネット経由で行うという。韓国では毎年全国の学校で基礎学力評価テストを行っている。テストは匿名で行われ、地域別平均点を出したり、基礎学力の足りない子どもの多い学校にはそれに合った指導を要求したりするのが目的。このテストも紙ベースではなく2015年までに段階的にIBT(Internet Based Testing)に変わる。
学校の授業もオンライン化して、学校を欠席してもオンライン授業を受講すればその日の授業を履修したことにする方針だ。
政府はスマート教育のために2015年まで2兆2280億ウォン(約1780億円)の予算を使う。デジタル教科書、モバイルクラウドコンピューティング、オンライン授業などを導入することで、教育分野での国の競争力を2015年までに世界10位以内、2025年までには世界3位以内にするのが目標である。
このニュースはTwitterでも話題で、「世の中の動きを考えれば、デジタル教科書はもっと早く導入するべきだったのでは」という意見もあれば、「デジタル教科書を使うためにはタブレットPCが必要だけど、パソコンは故障することもあるから不安」、「デジタル教科書にするのはいいけど、全国の小中高校生が全部タブレットPCを買わないといけないってこと?」、「端末ベンダーだけがもうかる政策ではないか」など、Twitterやブログではさっそく「スマート教育」を巡り、多くの人たちが意見を言い始めている。
2011年度の全国の小中高校生は約750万人。実証実験段階では政府が無料で端末(タッチ式ノートパソコン)を提供した。ところが、2014年からはデジタル教科書を使うための端末は生徒個人で購入するという計画だ。どんな端末からも使えるというが、結局親は、子ども用にタブレットPCを買わないといけないだろう。デジタル教科書は地デジとは違うので、タブレットPCを買わなくても踏ん張ればなんとかなると放っておくわけにもいかない。
また、スマート教育推進のために最も重要なのは、教員の研修である。デジタル教科書そのものも重要であるが、それを活用して授業を行う先生がデジタル教科書をフルに使えないと意味がない。教育科学技術部は2015年までに地域の教育庁別に「スマート教育体験館」を作り、全教員にタブレットPCを支給するとしている。
次回は一足先にスマート教育環境を構築した学校の事例を紹介する。
趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2011年6月30日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110630/1032704/