韓国政府が6月29日に発表した「スマート教育推進計画」は、国内外で大きな話題になっている。これは紙からタブレットPCへ教科書が変わるだけでなく、学校の教育そのものを根本的に変える政策だからだ。
一足先にスマート教育計画を導入した学校がある。ソウルから東南に車で3時間ほど離れた大邱(テグ)市にある大邱高校は、サムスン電子のGalaxy Tabを活用したスマートスクールシステムを実験的に導入した。
サムスン電子のスマートスクールは、先生と生徒がGalaxy Tabを使ってより便利に学校生活を送れるようにするというものだ。Galaxy Tabに保存したコンテンツを教室の中にあるテレビやプロジェクターに映して授業をするモバイルコンテンツ共有システムを使った授業を行う。先生も生徒もGalaxy Tabだけあれば重い教科書類や資料を持ち歩く必要がない。教室の中にはパソコンがあるが、事前に立ち上げてプロジェクターにつなげるのも面倒である。
「学生総合管理システム」を使ってRFIDで出席をチェックしたり、成績管理などができるようになった。教師と保護者とのコミュニケーションもGalaxy Tabを使ってリアルタイムで行う。成績表や家庭通信簿も紙ではなくモバイルで送信し、先生のコメントを確認して返事をしたり、1:1で質問したりすることもできる。「学生総合管理システム」は5月にソウルで開催されたWorld IT Show2011にも展示され、注目を集めた。
韓国政府が打ち出した「スマート教育推進計画」の具体的な柱として取り上げられたのは、「デジタル教科書」の他に、「オンライン授業活性化」、「オンライン学習診断・指導体制構築」、「教育コンテンツを自由に利用できる環境造成」、「教員のスマート教育実践力の強化」、「クラウドコンピューティング基盤造成」がある。「スマート教育推進計画」を推進するために、教育科学技術部(韓国の文科省)に「スマート教育推進委員会」を新設する。
政府はデジタル教科書のプラットフォームを民間に提供し、いろいろな企業が参加してスマート教育産業がより活性化するよう支援していく方針である。10年ほど前から無料で政府が提供する教育サイト「EDUNET」を基盤に、学校の授業に必要な学習資料を網羅したコンテンツのオープンマーケットを運営し、タブレットPCを使って授業中に利用できるよう、全教室に高速モバイルインターネットのインフラを提供する。
生徒が授業の復習や予習をするときもEDUNETにアクセスすれば動画や画像を使った参考資料を利用できるので、有料のEラーニングサイトを利用する必要がないようにする。デジタル教科書は所得や地域の格差を乗り越えて公平に、誰でも高い水準の教育を受けられるようにするための制度なので、デジタル教科書そのものはもちろん、参考資料になるコンテンツ開発も重要な課題だ。授業だけでなく学校の校務全般もタブレットPCを使って行えるようにする。
サムスン電子は大邱高校のスマートスクールについて、「より効率的な授業と学校経営のためになるソリューションを開発していく」としている。韓国では校務情報化も90年代に開発され全学校での導入が終わっているだけに、これをモバイル化できればさらに便利になることは間違いない。デジタル教科書が導入される前から、このようなスマートスクールシステムを活用しはじめる学校はどんどん増えそうだ。
次回は通信キャリアが新規事業として始めているタブレットパソコン向け教育アプリケーションについて紹介する。
趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2011年7月7日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110707/1032815/