ピョンチャン冬季オリンピックは、誘致段階から韓国の最新IT技術を総動員した「ユビキタスオリンピック」にすることを公約している。何をどうユビキタスにして世界が驚くすごいオリンピックにするのか、それを決めるための討論会が7月26日に行われた。
韓国情報化振興院が主催した「スマートピョンチャンオリンピック討論会」には、各省庁とオリンピックのスポンサーになっている企業の担当者が参加した。韓国が今まで築いてきたモバイル電子政府、モバイルヘルスケア、スマート教育、スマートシティ、スマートグリッドなどすべての技術をオリンピックに応用するためには、まず何から始めればいいのか、ということを議論した。まずは2011年末までにマスタープランを作ることで合意した。
2012年からは組織委員会が「スマートワーク」を導入し、ソウルとピョンチャンを行き交いしなくても、スマートフォンやタブレットPCから不便なく業務ができるようにすべき、オリンピック準備状況を誰でも随時確認できるよう情報を公開すべき、という意見もあった。
ピョンチャンで冬季オリンピックを開催できることはうれしい一方、新聞記事のコメント投稿欄をにぎわせているのは「赤字オリンピックになっては困る」ということだ。ピョンチャンはスキー場が有名なリゾート地で、冬しか人が集まらない。ピョンチャン側も、競技場を建てたのはいいが、オリンピックが終わってからは管理費用ばかりかかって冬以外は使い道がない、なんてことにならないようにするにはどうしたらいいのか、と悩んでいるはずだ。
通信事業社のKTとSKテレコムは討論会で、オリンピックのためのインフラ建設に約7兆ウォン(約5600億円)の予算が必要であると推算し、道路や競技場などの工事と有無線ITインフラを同時に構築することで費用を節約して、インフラ投資で終わらずオリンピックの後も活用できるサービス基盤を作ることを強調した。
韓国のIT業界では、2002年FIFAワールドカップをきっかけにデジタル放送やモバイルサービスの技術が発展し、韓国はIT先進国であるという宣伝になったことで輸出も伸びたとしている。2018年の冬季オリンピックでは、ピョンチャンをスマートシティにして、人々の生活はこれからこうなるという未来を体験してもらうことで、さらなるIT輸出につなげたいと期待を膨らませている。
ピョンチャンのユビキタスオリンピックのために、「未来ネットワークフォーラム」という組織も始動している。未来ネットワークは次世代インターネットのことで、3Dの大容量コンテンツを楽しめるほど高速で、セキュリティの高いネットワークであるという。韓国ではスマートTV、スマートフォンから利用できる3D映像がとても人気で、サムスンが3月から始めたスマートTV用3D映像は3カ月で100万ビューを突破したほどである。スマートフォンから3D映像を利用するためには高速モバイルインターネットが必要で、4GといわれるWibro(韓国のモバイルWiMAX)やLTEも商用サービスが始まった。
韓国ではピョンチャンを未来ネットワークモデル都市にして、企業からどんなサービスを提供するかアイデアを募集し、想像していたことが現実となる様子を見せたいとしている。入国した時点で観光客にタグを発行し、空港からホテル、競技場、観光地、ショッピングセンターいたるところでその人に合わせた情報サービスを提供しながら、テロ防止にもつなげるといったこともアイデアとして提案がある。個人情報をどこまで使えるかが課題ではあるが、医療支援が必要な観光客や選手の場合は、センサーを利用して機械が異常を感知したら、本人が異常を感じていなくてもすぐ近くの病院にSOSの信号を送り処置を取るといったことも検討する。こうした未来ネットワークを使った韓国のサービスモデルを世界に広げていくのが未来ネットワークフォーラムの役割でもある。
2018ピョンチャン冬季オリンピックは韓国のIT企業にとって大きなチャンスになることは間違いない。オリンピックをきっかけに韓国はまたどんな「世界初」サービスでユーザーを楽しませてくれるのだろうか。スポーツよりITに興味のある私としては、オリンピック競技よりもそっちの方が待ち遠しい。
趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2011年8月4日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110802/1033462/