携帯電話、同じ機種でも国内で買うと4倍高くなる?

サムスン、LG、パンテックなど韓国の携帯電話メーカーはほとんどの場合、新機種を海外で先に発売し、数か月後韓国で発売している。海外の家電展示会で新機種を公開し、北米とヨーロッパで先に販売をしてから、韓国内でも販売を始める。韓国の携帯電話端末はIT部門の3大輸出品目(半導体、ディスプレイ、携帯電話端末)であり、韓国経済を支える重要な産業である。

 ところが、韓国の携帯電話ユーザーは新機種を海外ユーザーより一足遅く購入するだけでなく、同じメーカーの同じ機種でもより高い値段で購入していること分かり問題になった。2011年9月16日、韓国の国会で、放送通信委員会(韓国の放送政策を担当する省庁)所属の議員が、携帯電話端末メーカーが代理店に支払う販売奨励金の問題点を指摘したもの。出荷価格の差が最大4倍ある、という報告が行われた。


 サムスン、LG、パンテック3社の端末平均出荷価格を海外と韓国で比較した結果、2010年海外での端末平均出荷価格は47万6483ウォン(約3万1500円。1ウォン=0.066円で換算、以下同じ)、韓国内での平均出荷価格は63万8922ウォン(約4万2300円)と、韓国の出荷価格が16万ウォン(約1万600円)ほど高かった。


 2008年の場合、海外での端末平均出荷価格は44万4863ウォン(約2万9400円)、韓国内での平均出荷価格は53万2592ウォン(約3万5200円)で差額は約8万8000ウォン(約5800円)だったのが、2009年は海外50万3452ウォン(約3万3300円)と韓国64万4979ウォン(約4万2700円)で差額は14万ウォン(約9200円)にまで広がり、2010年と2008年の差額を比較すると2倍に広がっている。毎年韓国で買う方が高くなっているのだ。


 メーカー別にみると、LG電子のCookyフォン(LG-KP500)の場合、海外出荷価格15万2395ウォン(約1万円)、韓国内出荷価格59万4000ウォン(約4万円)と最も差が大きかった。サムスンのGalaxy Sの場合は、海外では平均出荷価格が75万3627ウォン(約4万9800円)、韓国内平均出荷価格は94万9300ウォン(約6万2800円)だった。






もっとも価格差が大きかったのはLG電子のCookyフォン(LG-KP500)


 一方アップルのiPhone 4の場合は韓国の出荷価格の方が安かった。海外出荷価格が103万9091ウォン(約6万8800円)だったのに対して、韓国の出荷価格は94万6000ウォン(約6万2600円)だった。HTCのNexus Oneの場合は、海外が66万6432ウォン(約4万4000円)、韓国は60万5000ウォン(約4万円)だった。


 国会では「メーカーは代理店に販売奨励金が支給されることを前提に出荷価格を原価より高くしている」、「奨励金が市場価格を歪曲している」、「携帯電話端末の流通をより透明にしていかなくてはならない」として、奨励金を見直すよう検討すべきという声があがった。


 韓国の携帯電話奨励金は、メーカーが代理店に支払う販売奨励金と通信キャリアがユーザーに支払う補助金の2種類がある。補助金の場合はユーザーの加入期間や加入する料金制度に応じてキャリアがユーザーへ補助金を出すので、その分端末を安く買える。メーカーの販売奨励金は代理店の利益になるので、代理店はユーザーの好みに関係なく奨励金の多いメーカーの端末を販売しようとする可能性もある。代理店はキャリアからも販売手数料をもらう。奨励金が多くなればなるほど、ユーザーは高い金額で端末を買うことになる。


 国会の資料によると、販売奨励金は2000年までも端末1台当たり2~5万ウォンだったのが、2010年には25万ウォン近くなっているという。そのせいで、同じキャリアの同じ機種でも代理店によって価格が全く違うという問題も起きている。


 公正取引委員会は、メーカーが端末の出荷価格を原価より高くして、その分を代理店に奨励金として払う行為が公正取引法を違反していないか、「顧客誘引行為」にあたるのではないかとして2011年3月より調査を始めている。調査結果は年内には発表される予定で、結果によっては販売奨励金がなくなる可能性もある。


 国会での議論に対してメーカー側は、「同じ機種でもスペックやオプションが違うので出荷価格が違うだけ。韓国で出荷される時はDMB(韓国のワンセグ)機能が搭載され、アクセサリーも無料で提供しているから価格が高くなる」と釈明している。


 しかし韓国の出荷価格は高すぎるという議論はこれが初めてではない。2006年にも国会で、「同じ機種なのに韓国の出荷価格の方が3倍ほど高い」という指摘がされている。韓国産携帯電話の輸出価格を分析したところ、2006年上半期の韓国内平均出荷価格は37万1000ウォン(約2万4500円)だったのに対して海外平均出荷価格(輸出価格)は11万ウォン(約7280円)と、3倍の差があるという資料が公開されていた。何年経っても韓国メーカーの端末が、海外では安く、韓国では高く売られていることは変わらない。


 ユーザーの一人として感じる問題点は、スペックの差、オプションの差で海外と韓国内で価格差が生じるのは分かるが、同じ機種なのに代理店によって言い値が全く違うのはどうしてだろうか。KTは流通構造を変えて、全国のどの代理店で加入しても同じ端末価格で販売する「同一価格販売制度」を導入するとまで発表した。


 しかし韓国の携帯電話代理店はほとんどがキャリア3社を同時に扱っているので、キャリアに関係なく利益の高い端末を売った方が得である。KTが同一価格販売制度を始めても、代理店はKTの顧客を他のキャリアに機種変更させて奨励金をたくさんもらえる端末を売ることもできる。結局ユーザーだけがまた損をする可能性もある。今度こそは根本的に販売奨励金制度を見直して、ユーザーだけが不当に高い値段で端末を購入しなければならない流通構造を変えてほしいものだ。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年10月6日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110921/1037014/

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