[日本と韓国の交差点] 不景気なのに高いものが売れる不思議

2011年9月10日、韓国・仁川国際空港の免税店に550平方メートルの広さを持つルイ・ヴィトンが入店した。ルイ・ヴィトンの会長まで来韓し、盛大なセレモニーを行った。ヴィトンが空港内の免税店に出店するのは世界で初めてのことだ。同社には、市内にある免税店には入店しても、空港の中には入店しないというルールがあったという。

 そのルールを乗り越えて、サムスングループ系列の新羅免税店がルイ・ヴィトンを誘致した。韓国で大きな話題になった。ルイ・ヴィトンの誘致をめぐって、2009年からロッテ免税店と新羅免税店が競争していた。この競争は免税店を経営する財閥家の娘たちの戦いとしても注目されていた。それだけに、サムスン家の勝利として報道するメディアも多かった。



免税店はブランド品のディスカウントショップ



 ブランド誘致競争は外国人だけをターゲットにしてわけではない。出国する韓国人も利用できる。ソウル市内にある免税店では、その場で品物を手に取って選び、買い物することができる。決済を済ませると、空港で出国手続きを済ませた後に商品を受け取れる。


 韓国関税庁が発表した2010年韓国の免税店利用動向を見ると、免税店を利用しているのは韓国人が1268万8000人、外国人が813万9000人で韓国人の方が圧倒的に多かった。購入金額でも韓国人が18億7800万ドル、外国人が17億4600万ドルで韓国人の方が多い。免税店は、韓国人のための有名ブランド品ディスカウントショップのような存在なのだ。


 ブランド好きな財閥たちによるブランド入店競争は、デパート、セレクトショップにまで広がっている。2005年あたりから、デパートよりさらに高級なデパートを新たにオープンするのが流行った。高級デパートは知る人ぞ知るブランドをいち早く紹介する。値札を見ると「0」が一つ多いのではないかとびっくりするくらい高い。高級デパートはたいがいデパートの隣にあり、「名品館」「クラシック館」といった名が付けられている。ここでは値段が高い商品ほど早く売り切れるという。



ルイ・ヴィトンは「3秒バッグ」



 ブランド誘致競争は庶民の消費にも影響を与えている。女子高生からお年寄りまでブランドのロゴがくっきり入ったバッグを好む。韓国では、ルイ・ヴィトン、グッチといった日本でもよく知られたブランドのバッグのことを「3秒バッグ」「5秒バッグ」と呼ぶ。街中で3秒に一度は出会うバッグ、5秒に一度は出会うバッグという意味だ。


 「有名ブランドのバッグがないと恥ずかしくて外に出られない」「有名ブランドのバッグを買うためにバイトする」と平気で言う女性が増えている。「デンジャンニョ(味噌女)」という造語まで流行った。所得もあまりないのにブランド品を買いたがる虚栄心の強い女性を皮肉る言葉だ。


 韓国では、正社員になれず初任給が5万円程度の世代が増えていると騒がれている。その世代ですらブランド品を一つぐらいは持っているという。


 さらに、海外でシャネルのバッグを安く買って、韓国で高く売る「シャテック」と呼ばれる財テクまで流行っている。ウォン安の影響で、毎月のように有名ブランド品が値上がりし続いている。ヨーロッパのアウトレットに行ってブランド品を安く購入し、韓国のリサイクルショップで売る。差額で旅行経費を賄う。このノウハウを教えるネットの書き込みも増えてきた。



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