スマホ普及と安さが後押し、「ソーシャルコマース」が大躍進

 韓国インターネット企業協会が選定した「2011年インターネット業界10大ニュース」が発表された。大手ポータル、コミュニティ、オンラインゲームなどネットサービス会社のCEOが会員になっている団体で、毎年インターネット業界CEOが注目した話題を発表する。

 2011年はスティーブ・ジョブス死亡、スマートフォン加入者が全国民の40%/経済人口の80%突破、モバイルポータルサービス拡大、SNSの進化、ソーシャルコマース急成長、インターネット経済規模がGDPの5.94%にあたる63兆ウォン(約4兆2300万円)に成長したこと—などが選ばれた。


 話題が集中したのはなんといってもソーシャルコマースである。取引額がこの1年の間に500億ウォン(約34億円)から1兆ウォンへ(約670億円)と20倍成長しているからだ。ポータルサイトのNAVERが発表した2011年度のキーワード検索1位と2位もソーシャルコマースだった。1位はクーパン、2位はチケットモンスター、どっちもソーシャルコマース事業者の名前である。






ソーシャルコマース1位「クーパン」のアプリ



 ニールセンコリアが発表した「成長サイト」でもソーシャルコマースサイトの躍進が目立つ。2011年1月と11月の訪問者数を比較して、最も訪問者数が伸びたサイトを分野別に発表するものである。電子商取引ではクーパンが320万8805人から829万5095人へ158.5%増加、チケットモンスターが313万1808人から580万2745人へ85.3%増加し、成長率1位、2位となった。


 韓国のソーシャルコマースは2010年2月にウィーポンという会社が登場してから、チケットモンスター、ウィ メイク プライス、クーパン、グルーポンをはじめ2011年8月時点で500社以上もある。

韓国のソーシャルコマースも日本と同じで、5000ウォンの商品券が1000ウォンで買えるとか、特定の商品と交換できる商品券(クーポン)を半額以下の値段で買って、お店で交換するというものである。レストランのセットメニュー、ケーキなど食べ物とネイルサロン、エステが人気を集めている。

 ソーシャルコマースの商品券はスマートフォンからも購入できる。AR(「拡張現実」の略。現実の映像にデジタル情報を重ね合わせる技術のこと)と位置情報を利用して自分の周りにソーシャルコマースで安く商品券を販売しているお店を探すアプリ「スキャンサーチ」も300万人がダウンロードしたほど人気を集めている。


 日本でも有名な女優キム・テヒと徴兵制により出入隊したピ(Rain)がイメージモデルのクーパンは会員数900万人を突破。チケットモンスターは400万人を突破した。Webサイトログ分析専門会社のrankey.comによると、ソーシャルコマース訪問者数1位は「クーパン」、2位は「チケットモンスター」、3位は「グルーポン」、4位は「ウィ メイク プライス」で、この4社対残り500社以上の競争になっている。







女優のキム・テヒはクーパンのCMにイメージモデルとして出演している


 米国のソーシャルコマースは、SNSを基盤にしているのでその分マーケティング費用がかからないから安く販売するという趣旨であるが、韓国は「○○を半額で買える商品券販売」という一種の商品券サイトのようになってしまった。


 日本では2011年の年初、サイトに掲載された、割引クーポンで申し込むおせち料理と見た目が違うおせちが配送された「おせち事件」をきっかけにソーシャルコマースが委縮したというが、韓国でも似たような事件があった。商品券を買ってレストランに行ったところ、ソーシャルコマース会社が宣伝していた写真と全然違うメニューを出された、商品券を買ったのに予約がいっぱいだと断られ有効期間内に使えなかったなど、消費者センターへの苦情が相次いだ。


 2011年5月に韓国公正取引委員会がソーシャルコマースを「通信販売仲介業者」ではなく「通信販売業者」として定義し、顧客が購入した日から7日以内であれば自由に払い戻しできるようにし、商品の販売方式や品質なども厳しく監督するようになった。


 それでもソーシャルコマース会社は雨後のたけのこのように設立している。その理由はやはりお金になるからだ。


スマートフォンが普及してから、韓国の人口の4割はいつでもどこでもネットにつながっている。買う前にスマートフォンのアプリで価格を比較して、同じものなら安い方で買うのがライフスタイルとして定着しつつある。長引く不況の影響もあるが、買うかどうか迷う時も、SNSを利用して友達に聞けばすぐ答えが帰ってくるので、衝動買いというのもだんだんしなくなった。

 そのため一つの商品を大量に売ることで安くしているソーシャルコマースに人が集まり、ソーシャルコマースを利用しないと、なんだか払いすぎているような気分になることすらある。いろいろなクレームがある中でも、ソーシャルコマースの市場規模が2011年の1年間に20倍も成長している理由はやはり「安い」からだ。それに今韓国でソーシャルネットワークは最もホットな話題になっているので、ソーシャルコマースに商品を提供しただけで一緒に話題になり広告効果が倍になるため、企業側も喜んで商品を出すというのもある。


 最近はソーシャルコマースでも、レストラン、ファッションだけでなく歯科のインプラント治療、眼科のレーシック手術の商品券を安く販売するところも出てきた。育児専門、ウェディング専門、食材専門など、分野別専門ソーシャルコマースも登場し始めている。SNS経由で口コミが広がり商品の売上にも大きな影響を与えるのがソーシャルコマースである。人々の口コミを欲しがる企業をターゲットに、グルーポンは中小企業の「名品」、ウィ メイク プライスは地方特産品を日替わりで安く販売するコーナーを設けている。


 2012年もソーシャルコマースは勢いよく成長すると見られる。クーパン、チケットモンスター、グルーポン、ウィ メイク プライスの4社は「信頼」される企業になりたいとして顧客センターの人員を増やし、購入取り消しや払い戻し手続きを改善した。また未使用商品券の場合は、顧客が払い戻し申請をしなくても、有効期間が終わった日から20日後購入価格の90%を自動払い戻しする。宣伝したのとは違う商品を渡された、写真と違う料理だったという苦情を防止するため、品質管理も徹底して行うとしている。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2011年12月28日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20111228/1040023/



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