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2012年2月に発表された2011年度の決算によると、携帯電話最大加入者数を誇るSKテレコムは、前年比売上は2.2%伸びたものの、営業益は6.3%減少、純利益は10.4%減少した。ARPU(average revenue per user、1契約当たりの平均収入)も3万3175ウォン(約2430円)と、2010年の3万4491ウォン(2530円)に比べ4%ほど減少している。
利益が減少したのは、トラフィック増加によるインフラ投資、次世代通信であるLTEの全国サービスに向けて設備投資が増えたという影響がある。ただ、それよりも通信キャリアが恐れているのは、無料でチャットができるメッセンジャーアプリだという。
キャリアの基本収入である音声通話、SMS(ショートメッセージサービス)の売り上げが減っているのは、ユーザーが音声通話の代わりに無料モバイルチャットで用事を済ませてしまうからだ。SMSの売り上げは主要キャリア(SKテレコム、KT、LG+)3社合わせて年間1兆5000億ウォン規模(約1100億円)にのぼる。スマートフォンが普及すればするほど、無料メッセンジャーアプリを使うユーザーが確実に増えると予測されているため、キャリアの音声通話とSMSの料金見直しは選択の余地がないだろう。
無料メッセンジャーアプリの代表格であるカカオトークは3200万ダウンロードを突破、1日に10億件ものメッセージが送信されている。やはりメッセンジャーアプリでポータルサイトDaumが提供する「マイピープル」、ほか「ティックトック」といったアプリもそれぞれ1000万ダウンロードを突破した。ティックトックの場合、2011年7月にサービスを開始して5カ月で1000万ダウンロードを記録し、カカオトークよりも早いスピードでユーザーを集めている。これだけユーザーが多いというのは、韓国のスマートフォンユーザーは、カカオトークを定番として、他のメッセンジャーアプリも合わせて使っているということになる。
マイピープルはDeNAの「Mobage(モバゲー)」と提携し、2012年2月から「Daum Mobage」という名前で韓国語サービスを始めた。Mobageとマイピープルを連動させてユーザー同士でのチャットや音声通話もできるようにする。
韓国ではまだ音声通話アプリよりも、電話番号がIDとなるチャットのようなメッセンジャーアプリが一般的である。相手の電話番号さえ知っていれば、お互いが加入するキャリアに関係なくメッセージを送信できる。例えばドコモのユーザーがauのユーザーへ、電話番号をアドレスにして携帯電話からメッセージを送信できるようなものである。
中央省庁の一つである放送通信委員会が実施した2011年度スマートフォン利用実態調査では、スマートフォンユーザーの70%が、無料のメッセンジャーアプリを使うようになってから、キャリアが提供する有料のSMSサービスをほとんど使わなくなったと答えた。カカオトークがあれば十分だからだ。キャリアの立場からすると、カカオトークはトラフィックに負荷をかけ、SMS収益まで奪い続ける憎い存在である。キャリアも3社それぞれメッセンジャーアプリを提供しているが、既にカカオトークに慣れてしまったユーザーはなかなか変えようとしない。SKテレコムの子会社であるSKプラネットは3月7日、カカオトークの次に人気の高いティックトックを買収する方針で検討していることを明かした。新しくアプリを作るより、人気のアプリを買収した方がお得かもしれない。
一方で、キャリア3社が共同で無料メッセンジャー+音声通話アプリを開発するという話もある。SKテレコムをはじめキャリアがこれから導入しようとしているアプリは、スマートフォンのアドレス帳からチャットや無料音声通話ができるようにするものである。アプリを立ち上げなくてもすぐ使えるのが便利だ。他のアプリに音声通話の市場を取られるよりは、自分達が提供して広告収入とLTEデータ通信費を少しでも伸ばしたい、ということなのだろう。早ければ7月にはスマートフォンにプリインストールされる。
韓国では無料音声通話アプリといえばSkypeやViberなどで、主に子どもを海外留学させている母親や国際電話をかけることが多いビジネスマンがよく利用している。日本でサービスしている韓国企業の無料音声通話アプリもインストールさえすれば韓国でも使えるが、今のところ音声通話機能のないカカオトークの方が使いやすいと断然人気が高い。音声通話アプリをインストールしたものの、3Gからはつながらないという不満のレビューもよく目にする。インターネット電話加入者が多いので、既に加入しているインターネット電話会社のアプリ(加入者間通話は無料だが基本料あり)を使って電話代を節約する人もいる。
韓国ではLTEがある程度普及してから、安定した品質で音声通話アプリを始めるもくろみだった。実際、LTEは順調に加入者を増やしている。
2011年7月から受付を開始したSKテレコムのLTE加入者は、2012年1月末で100万人を突破した。実測で下り24Mbps、上り11Mbpsほどなので、スムーズに音声通話アプリや動画を利用できる。しかし使い放題の料金制はなく、月々約4000円で1.2GB分使えるプランだ。SKテレコムのLTEデータトラフィックの69%がマルチメディアであるため、LTEユーザーには動画サイトの利用料を割引するといった計画もあるという。SKテレコムは2012年末までにLTE500万人加入を目標とする。LGU+もLTE加入者が100万人を突破した。いよいよ2012年下半期から多様なモバイルVoIPサービスが登場すると見られる。
趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
[2012年3月9日]
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120309/1043422/